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どうしても欲しいもの④

 ケインはひたすらじっと息を殺して、シルフレイアが現れるのを待った。

 本当は今日は夜勤のはずだったが、他の者に頼み込んで変えてもらった。

 こんな生活もあと少しだと思うと、考え深い。


 「ケイン……?」


 小鳥のさえずりのような美しい声が、上から降りてきた。

 彼女は紺色の厚めのショールを羽織って、キョロキョロと辺りを見回し、ケインの姿を見つけるとすぐに、ぱあっと花が咲いたかのような笑顔になる。


(これからは、昼間でもその笑顔がみられるようになるのか……)


「ごめんなさい、なかなか侍女が離れなくて……、ケイン寒かったでしょう?」

「これくらい全然大丈夫ですよ。あなたに会えないほうが苦しいから」


 銀色の長い髪を一房すくい、口づけをする。

 彼女は恥ずかしいのか、うつむいて「でも、ケインが風邪を引いてしまうのは困るわ……」と言った。

 しんと静まった寒い夜の闇に、彼女がもってきた小さいランタンの明かりだけが灯っている。

 小さい明かりだけど、ケインはとても暖かい気持ちになった。


「この生活もあと少しです。俺が『賢者』になれば、あなたに堂々と会いに行けますから。そしたら、明るい場所でゆっくりあなたの顔が見られる」

「そうね。あと少し……シュナイゼル様が皇帝にさえなれば、私たちは一緒にいられるものね。早く未来を視ないといけないのに……」

「まだ『視え』ませんか?」

「……ええ、ごめんなさい」


 そう告げたシルフレイアは、肩を落としため息をついた。

 自分のために頑張ってくれているのに、何もできない自分がもどかしい――ケインは彼女の肩を引き寄せて「ありがとう、でも無理はしないでほしい」と本心から言った。

 すると、シルフレイアはケインの腕をほどき、「私は大丈夫よ。今無理しなくていつするの? これを逃したら私たちは側にいられなくなる」と瞳をうるませ、笑顔で言う。


 彼女はいつだってそうだ。

 屋敷を出て、神殿へ上がる日も今と同じように、笑っていたが心では泣いている。

 ひとりで全てを抱え込んで、心を閉ざす。

 それは、『サキヨミ』の巫女としての宿命だと何度も自分に言い聞かせ、ここまで一人で頑張ってきた。

 そんな重圧から、シルフレイアを開放したいとずっと思っているが、それこそ不可能だった。

 

 この帝国が『サキヨミの巫女』を手放すはずがない。

 それは、『賢者』と同じ。

 賢者になれば、彼女の隣で彼女の重荷を一緒に持つことができるかもしれない。

 

 ケインはそんなことを考えながら、自分の胸から離れたシルフレイアを、隣に座らせ、片方の肩を貸した。

 空を見上げると、満点の星が輝き、今にも降ってきそうだった。

 

「箱の開け方さえわかれば、あなたを『賢者』にしてあげられるのに。欲が出でるからだめなのかしら。その他のものは視えるのに」

「願いが強すぎるプレッシャーになるのかも。どうしてもみたい夢があっても、なかなかみられないのと同じなのかな?」

「それに近いものよ。きっと」

「まだ、日にちはある……」


 そう言いながら、ケインは彼女の冷たい手を握ると、「そうね」とシルフレイアも握り返した。


「箱って、どんな箱なのだろう? それさえわかれば、何か対策ができる? どんな魔術がかかってるかとか……お嬢様?」


 声をかけても、返答がないので、シルフレイアの顔を覗くと、目を見開いて何か信じられない物を発見したかのようなそんな顔つきで、ケインの方を見返してきた。

 もしかして何か視えたのだろうか? ケインはすかさず、「どうしましたか? 大丈夫ですか?」と聞く。


「ケイン、視えたわ。あなたのお陰で、ビジョンが視えた!!」

「え?! 箱の開け方がわかったんですか?!」

「いいえ、箱の開け方はわからないけど、大丈夫! あの方に伝えれば絶対大丈夫だわ!」

「よくわからないのですが……」


 すると勢いよく立ち上がり、シルフレイアはその場で両手を広げ、くるくる回り始めた。

 よっぽどいいビジョンなのだろう。

 彼女の頬は興奮で蒸気していて、声も弾んている。


「ケインを握ったときに視えたの。そうね、あなたは帝国議会に参加するわけだから、あなたの未来を介せばよかったのね。全然思いつかなかったわ! でもこれなら、確実。私達が動けなくとも、シュナイゼル殿下がしてくださるし」

「シルフィ、全然わからないから、説明してほしい。あと、少し声を落とさないと、誰か来てしまうよ」

「あ、ごめんなさい。興奮してつい……」


 そう言いながら、彼女は口を抑え再びケインの横に座った。

 

 


 

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