どうしても欲しいもの③
「だれかいるのか?」
神殿警備の女騎士が、槍をぐっと構えるが、だれも見当たらない。
ここは、暗闇に包まれた、神殿の奥のパティオ。
「どうかしましたか?」
向かい側から、神殿付きの侍女がやってきたので、「なにか物音が聞こえませんでしたか?」と聞いてみた。
「いいえ。野良猫じゃないかしら? 最近迷い込んできた野良猫が一匹うろついているってみんな言ってましたから」
「そうですね。まぁ、この神殿にはそう簡単には誰も入れないですしね」
「王宮内より警備が厳しいってホントなんですよね?」
「どうでしょうね」
そういいながら、女騎士は再び警備の任務に戻った。
そんな二人のやり取りを、ずっと息を潜めて植木の影から見ている人物が。
その人物は女騎士と侍女が消えるのを待って、地面を這うよう、神殿奥の薔薇庭へ続く道を抜けていく。
辺りは真っ暗だというのに、彼の目にははっきりと建物や木々の隙間、門の場所が見えている。
その目を駆使し、危険を犯してまで会いに行く目的が、彼にはあるのだ。
彼は、バルコニーの階段の下の影に隠れ、小声で主の名を呼ぶが、返事も物音もしない。
今日は彼女と会える約束の日。
侍女たちを追い払うのに時間がかかっているのだろう……そんなことを思いながら、壁にもたれかかり足を抱えて座り込む。
(彼女と会って、9年……)
ケイン・シュルツがシルフレイアに出会ったのは、今日と同じような寒空の暗闇の中だった。
全身血だらけで森を必死で駆け抜け、そして、力尽きた。
仲間も家族ももういない。
(もう、終わりだ……)
絶望と復讐心だけを携えて、あの世へいくのだと思いながら目を閉じた瞬間、誰かが耳元で叫んだ。
「死んじゃだめ!!」
その一言で、思いとどまった自分の命は、今、彼女のためにしかない。
だから、願うことは『そばにいること』だけ。
ただそれだけの願いだけど、叶えるのはずっと難しい。
教会付きの騎士まで上り詰めたが、性別の壁だけでなく、身分の壁が重く高く立ちはだかっていて、自分ではどうすることもできないと思っていた。
そんなある日――
あの方がやってきて、言った。
「そんな簡単な願い、私が叶えてあげよう。でも、願いを叶えてあげる代わりに私に忠誠を誓いなさい」
顔は穏やかに笑っていたが、瞳の奥には背筋が凍るような冷ややかな鋭さがあった。
「さあ、どうする?」と組んだ手の甲に顎を乗せ、こちらの返答を催促してくる。
ケインはゴクリと唾を飲み、シルフレイアと自分の未来を考えた。
願いを叶えるためには対価が伴うもの。
全てをこの男に賭けて、やり遂げるしか道はない。
「本当に願いが叶うなら、あなたに忠誠を――」
ケインは膝付き、左胸に手を当てて言った。




