どうしても欲しいもの②
ラザフォードはペンを指で弄びながら、淡々と、「サキヨミの巫女とシュナイゼルが直接取引をしているということは、彼女にも『欲しいもの』があるのだろうね。それか、弱みを握られているかのどちらか。未来が視える彼女にも願いがあるとは驚きだが」と言った。
彼女がどれぐらいの確率で、どれぐらいの未来が視えているのかは定かではない。
確かなことは、その力が本物であろうと無かろうと、彼女はこの国の『サキヨミの巫女』であって、彼女の口から発せられる言葉には権力があるということだ。
「別に未来が視えようが視えまいが、願いの一つや二つは誰にだってあるだろう?」
と、聞こえる聞こえないかぐらいの声で言ったカイルの言葉を、ラザフォードはすかさず拾い、「いいね、カイルのそういう素直なところが好きだよ〜」と冗談交じりで言った。
そして、ラザフォードは椅子を回し、両手を顎に当て机に肘をつき、ニコリと微笑む。
不気味すぎる微笑みに、カイルは若干悪寒が走ったが、「そりゃどうも」ととりあえず返しておいた。
「俺を見習って、ラズはもっと自分に素直になるべきだ。ずっと一人で背負っていく必要はないし、願ったっていいと思う」
「それが出来たら苦労はしない」
「あんたが頑固だから、話がややこしくなって、ユリアスが帰っちゃったんだよ! その辺、いい加減に理解してほしい!」
カイルとラザフォードの談話に珍しくレイフォードが割って入った。
レイフォードは、カイルのように主人を諭して理解させる気はないらしい。
せっかく鎮火しそうだったのに、再び燃え盛ろうとしている。
「ほう? レイフォード、お前は、俺の許可なく事実をばらしたことを棚に上げて、責めるんだな。ずいぶんお前は偉くなったものだよ、なぁ? カイル?」
「あ、でも、ユリアスは帰って大丈夫なのかね? 当主にこっぴどく絞られてなければいいけど、なぁ、レイ?」
話題を少しでもそらそうと奮闘するカイルは、レイフォードに向かって別方向からボールを投げてみる。
「もし、ユリアスのことがシュナイゼル殿下にバレてみろ? そうなったら、どうなるかわかってるんだろう?
ラズ、奴らが嗅ぎ当てる前に、ユリアスと早く和解して連れ戻せ」
残念ながら、ボールはカイルではなくラザフォードに向かって打ち返されてしまった。
そして、そのボールをすぐさまラザフォードが拾って打ち返す。
「よくも、そんなことを、しゃあしゃあと言えるもんだ。バレたらお前のほうがただじゃおかないぞ!?」
「俺に何かする前に、牢屋に打ち込まれないようにしたらどうだ? そのお得意の頭脳で!」
「お前、俺が主だということを忘れてるのか?!」
「ちょ、ちょっと、ふたりとも今喧嘩している場合じゃないだろう? 喧嘩はひとまず置いておいて、小麦泥棒を捕まえないと! ねぇ?」
バチバチと燃え上がってしまった炎をカイルには消すことは難しそうだ。
二人のラリーは永遠と続きそう。
今日何度めかわからないため息をついて、カイルは静かに書類に向かった。
『サキヨミの巫女は何を手に入れるために、シュナイゼル殿下と手を組んだのだろう?』
カイルは、さっきの話を思い返してみた。
中立を保っている神導家のの出方次第では、こちらが明らかに不利になる。
それは、『賢者』であるユリアスを引っ張り出してきても……
次の議会までにあと時間はどれくらい残っているのだろう――?
ラザフォードは、何か打つ手を用意しているのだろうか――?
外では北風が吹き荒れ、窓枠をガタガタと鳴らしていた。




