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どうしても欲しいもの①

「スズランカに関してはエルビンに聞くといい。彼は昔、スズランカの研究をしていたから」

「エルビンという方はどちらに?」

「ほら、あそこのカウンターにいるヒョロっとした背の高い眼鏡の男だよ」


 首を出しカウンターの方に目をやると、エルビンという男はにこやかに接客していた。

 流石にこの忙しい時間帯に彼に話を聞くのは忍びない。

 女将には、また出直しますと伝え、ユリアスは問屋を後にした。


 今にも雪が降り出しそう。

 白い息が灰色の空へ昇る。

 疲れている体に鞭をうち、ユリアスは女将に教えてもらったスズランカの農家へ向かった。





                  *********



 一方の王宮では、『第一皇子が小麦泥棒の嫌疑をかけられている」というゴシップネタで、いつもの業務どころではなくなっていた。

 皇族、それも時期皇帝候補のスキャンダルは普通は表に出ないのだが、なぜが侍女や侍従、厨房見習い、神官などありとあらゆる所にまで漏れているので、侍従長ですらこれを鎮火することは不可能。

 まるで、誰かの策略だというような広まりかただ――


 牢屋に投獄はされていないが、ラザフォードは嫌疑が晴れるまでは東宮で軟禁状態。

 一番動かしやすい側仕えは、こんなタイミングで職を辞してしまい、頼れる味方はカイルとレイフォードの二人だけ。

 その片方とは若干の冷戦状態が続いているから、もう一方に業務がとどこおっていく。


「流石に俺ももう限界だ! 過重労働で訴えたいよ!!」

「普段より真面目に業務に取り組んでいるじゃないか? 何がそんなに不満だんだ、カイル」

「各方面からの意見書と嘆願書に対する返答は全く進んでいなだろ!? 嫌だからな、これを代筆するの! そこで突っ立っているレイフォードにやらせろよ!」

「あいつは、文才がないからダメだ」

「そんなこと言っている場合じゃないからね!? 俺の手が壊れて二度とペンを握れなくなってもいいのか?」

「そうだな、そしたら、聞き手じゃない方でも字を書く練習をしておくといい。どちらの手がなくなってもやっていける」

「………あ〜、こんなことになるならユリアスをくくり付けてでも、置いておくべきだった。誰かさんたちのせいで優秀な人材が失われた!!」


 カイルは、突っ立っているレイフォードと机でぼんやりしているラザフォードをちら見しながら、聞こえるように言った。

 どうやら休戦する気はまだないようだ。

 はぁ、とわざと大きいため息をつく。


「ユリアスは実家へ帰りました」

「ってか、レイフォード、お前そんな所に突っ立ってる場合? こっちを手伝うか、ユリアスを連れ戻して来いよ!」

「それは無理だ。誰かがちゃんと真実を話さないから。ユリアスを連れてくるだけ無駄だ」

「ほ〜、それは私に対しての当てつけかな? レイフォード?」


 ラザフォードは冷ややかな笑みを浮かべ、挑戦的にレイフォードに投げつけた。


 元はといえばレイフォードがユリアスに喋ったことが、ことの発端なのにどうしてこうも批判されなければならないのか?

 確かにレイフォードから、すまないと謝罪はあったが、今の彼の態度を見ると反省の色はみえない。

 ユリアスに父親の話をすることは『崩壊』を意味している――このことはレイフォードは重々わかっているはずなのに、どうしてこのタイミングだったのか?

 レイフォードには絶対『理由』があったはず。

 そうじゃなきゃ、今まで裏切る行為をしたことがない彼が、ユリアスに言うはずがない。


 ラザフォードはそんなことを脳内で巡らせながら、彼がその『理由』を言うのをじっと待っていた。

 でも、レイフォードは挑発に動じることなく、報告を続ける。


「おそらく、シュナイゼル殿下はサキヨミの巫女と結託して、その儀式までに『賢者』を仕立て上げるようだ。『例の箱』もおそらくサキヨミの巫女が、何か手を貸し、開けさせるのだろう」

「レイ、どうして、そこでサキヨミの巫女なんだ? 神導家は中立的立場のはず。シュナイゼル殿下に彼らが手を貸すメリットがあるというのか?」


 カイルは嘆願書を開封するのを諦め、机の上に投げ捨て言う。

 レイフォードから『理由』を告げる気はないとわかったラザフォードは、ため息をつきながら、視線を窓に移し、ぼんやりと流れる雲を追った。

 そして話題は逸れて、サキヨミの巫女へ。


「メリットはある。でも神導家じゃない。サキヨミの巫女個人のメリットだ。シュナイゼル殿下は彼女に何か取引を持ちかけていると巫女付きの女官が証言した」

「お、お前どうやって、あそこに侵入したんだ!? 男子禁制だろうが!」

「そんなの、簡単だろう? ユリアスも神殿奥まで入れるわけだし」

「ユ、ユリアス?! はぁ? どうしてユリアスの名前が出てくるんだ?!」


 ずっと目を合わせなかったレイフォードが、ラザフォードに目配せし頷いたので、仲間はずれにされたカイルは「俺には内緒なのかよ!? こんなに殿下に尽くしているのに?!」と机をダンダン叩きながら叫ぶ。

 

「まぁ、まぁ、カイル落ち着いて。今度ユリアスにあったら見せてもらうといい」

「え? だから、何を?ラズ、知ってるなら、教えてよねぇ? えっ? ええ?!」

「話を戻すと、今回の小麦泥棒の嫌疑が広まっているのもシュナイゼル一派の仕業だ」

「ちょっと、ユリアスの話は終わり!? めっちゃ気になるんですけど。気になって他のことが考えられないんですけど?」


 カイルは淡々と報告を続けようとするレイフォードの襟を掴み、前後に激しく揺する。



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