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故郷③

 バスルームから出てユリアスは自室に戻ると、カバンから透明な容器を取り出した。

 その中には東宮の庭で採取した植物たちの葉っぱが入っている。

 色々ありすぎて頭が破裂しそうだが、恥ずかしく大変な思いまでしたこの「葉っぱ」を無駄にするつもりはなかった。

 むしろ、いろんなことを考えたくないという気持ちがユリアスを犯人探しへと向かわせているのかもしれない。

 それぞれの葉っぱを取り出し、匂いを嗅いでみる。

 特にどちらも無臭だった。

 薬室でアニシナ薬室長が言っていたことを思い出す。

 

「燃やすと甘香りがするこの薬草は危険だから市場には出回らない。一部の例外を除いて……」


 その例外は王宮と魔導家だ。

 魔導家は昔から薬草の栽培を積極的に行い、医療に役立ててきた。

 魔力が失われていく穴を埋めるかのように、医薬品の研究に力を入れているから、『ユズリ草』も『スズランカ』もどこかで栽培されているはず。

 ユリアスは透明ケースに葉っぱを戻し、コートのポケットに入れ、部屋を出た。


「お出かけですか?」と侍女のメリエッサに声を掛けられたので、「ちょっと用を思い出して……でも、すぐ帰ってくるから!」とあはは…と笑いながら階段を降りる。

 玄関を出るときに、ナナリーに呼ばれた気がしたが、捕まりたくはなかったので、聞こえなかったことにした。

 雪は降っていないが外は相変わらず寒く、息が白くなる。

 ここは王都よりも気温が2度ぐらい低く、もう少し経つと雪が本格的に降り出し、膝ぐらいすぐ降り積もってしまう。

 だから、今のうちに冬支度を済ませなければ冬を越せない。

 食料も薪ももちろん備蓄しなければならないが、収入源である薬草に藁をかぶせ霜にやられないようしなければならなかった。

 だから、領地の大人も子どもも忙しい。

 10分ほど歩くと薬草の問屋街が広がっていて、人がかなり行き交っていてた。

 

「おや、ユリアス坊っちゃんじゃないか!? 王宮へ参上したんじゃなかったのか?!」

「もしかして、厄介払いされたのか? そうとう変わっているお方だって噂だったが、本当だったかい?」

「ちょっと、あんたら、まずユリ坊をいたわりな! 変な奴らに痛い目に合わされたりしてないかい? 」

「だ、大丈夫です。ありがとうございます」


 ユリアスはかなりの有名人になっていた。


 第一皇子の側仕えとして送り込まれたユリアスには魔導家の未来がかかっていたのだが、そんな彼が今目の前にいる。

 つまり、王宮から魔導家は見放されてしまったということを意味しているのだが、そんなことはだれも口に出さずユリアスを責めなかった。

 責められることを覚悟していただけに、拍子抜けだ。


(罵倒される覚悟だったんだけど……)


 問屋街の人たちにもみくちゃにされながら、ユリアスはありがたい気持ちになった。

 まだ自分を受け入れてくれる場所があるということが、うれしい。

 でも、自分は彼らに何を返せるのだろう?


 問屋の女将が「みんなで寄ってたかって、撫で回したら、ユリアス坊っちゃんが壊れちまうよ! ほら!行った行った!!」と周りの人をどかしてくれ、やっと人の輪から開放される。


「メーテルさん、たすかりました……」

「大丈夫かい? ほれ、水」

「い、いただきます」


 ユリアスは水を一気に飲み干すと、一息つき、問屋の女将のメーテルに例の葉を見せる。


「メーテルさん、『ユズリ草』と『スズランカ』ってご存知ですか?」

「『ユズリ草』?『スズランカ』? ん〜名前はちらっと聞いたことがあるような。あんまりメジャーじゃない薬草だろう?」

「はい。市場には出回らないものなんですけど……」

「ちょっと待ってて、調べてあげるから」


 そう言って、メーテルはユリアスを店に通した。

 入り口のカウンターの周りには壁一面にびっしりと薬草を入れておく引き出しが備え付けられていて、店には不思議な匂いが立ち込めている。

 店員がせっせと客のオーダーに合わせてその引き出しから薬草を出し入れし、計りにおいて小袋へ取り分ける。

 店はユリアスがしっている日常よりも混んでいた。

 冬は薬屋だけでなく、問屋も忙しい。

 


 




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