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故郷②

「おかえりなさいませ、ユリアス様」

「ただいま、みんな元気だった?」

「ええ、ユリアス様もお変わりなさそうで……えっと……その泥はどうされたのですか?」

「あ、ちょっと転んでしまって」

「まぁ、まぁ、大変ですわ。メリエッサ、湯殿の準備を!」


 執事や侍女たちに迎えられて、ユリアスはなんだかホッとする。

 自室へ向かおうと階段に足をかけた時、「おかえりなさい、ユリアス」と優しい声がした。


「ただいま戻りました、母上」

「道中無事でなによりです。ゆっくり休みなさいね。今日の夕飯はユリアスが好きなものを作らせるから」

「ありがとうございます。父上は?」

「朝から会合でお出かけですよ。夕飯には帰ってくると言ってました」

「そうですか」


 義母は、どうしてユリアスが帰ってきたのかを問い詰めようとはしなかった。

 他のものは何か聞き出そうとそわそわしているのに、この女性はただ単純に、ユリアスの帰省を喜んでいるのが伝わってくる。

 ちょっと気を緩めたら、涙が溢れそうになった。

 その一方で、彼女の血を受け継いでいるはずの義妹は、遠慮なしに「ユリ兄、お城の生活はどうだったのですか? やっぱり宮殿の寝具は素晴らしかったですか? きれいな女の人に言い寄られてたりしてませんよね?!」などと間髪入れずに質問を浴びせる。


「ナナリー、ユリアスは疲れているのだから、そのへんで開放してあげて。ユリアス、早く着替えてきなさい」

「はい」

「ユリ兄、夕食のときにゆっくり聞かせてくださいね!」


 うでにしがみついてた義妹から開放され、ユリアスは自分の部屋へ向かった。

 部屋は王宮へ行く前となにも変わっておらず、ホコリ一つ落ちていない。

 ベッドカバーもシーツも、カーテンも全て洗濯してくれたのだろう。

 綺麗に整えられた部屋は王宮で与えられた部屋より小さいが、とても心が癒やされた。

 そして、慣れ親しんだ机に触れながら、一人「ただいま」とつぶやいてみた。

 すると、ホッとしたせいか、急に眠気が襲ってくる。

 しかし、せっかく綺麗にしてもらったベッドの上に、泥まみれの姿で転がるわけにはいかない。

 う〜っと、腕を天井へ突き上げストレッチをした後、ノロノロと風呂場へ向かった。





                   ******



 (あ〜やっぱり、ウチはいいなぁ……)


 風呂から出て着替え、半乾きの髪をタオルで拭いていたら、いきなり後ろから何者かに抱きつかれ、「うわっつ!」とユリアスは叫び声を上げた。

 首をひねると「おかえり、ユリアス!」の声とともに、義兄の顔が――


「た、ただいま…兄上……ちょっと苦しいから…離れて…」

「ひどいな、半年ぶりの兄との再開を感動してくれないわけ?」

「たった半年でしょう?」

「みんなお前がいじめられてないかすっごく心配してたんだぞ!? 手紙ふみのひとつもよこさないから、

母上もナナリーも使いの者に偵察に行かせようかとか言ってたんだぞ!?」

「いやいや……そんな心配なら、僕を側仕えとして送り込まなければよかったんですよ。あ、ロンの足の怪我の具合はどうですか?」

「もうすっかり治った。自分の代わりにお前が王宮へ参上したことをずっと妬んで、そりゃぁめんどくさかった。あいつに掴まるとワンワン泣かれた」

「そうでしたか」

「ってか、何その口調?! なんでそんなに他人行儀!?」

「え? ああ…ずっと、偉い人たちに囲まれていたからから、なんか調子が……」

「昔のように『レオ兄』と呼んでくれてかまわないんだよ?!」

「いやいや、次期当主をさすがに『レオ兄』なんて呼べないから」

「お前のうちなんだから、構わんだろ!!のびのびしろ! 伸び伸び〜!」

「っちょっと、兄上!!」


 タオルでワシャワシャ髪を拭かれると、ここに連れてこられたばかりの頃を思い出して、目頭がちょっとジンときた。

 それを悟られまいと、ユリアスは兄の手を振りほどき、「もう、子どもじゃないから!」と言い放った。

 口をへの字に曲げ、むっとする義弟に「いつまでたってもお前はこのうちの子どもだろ?」と言いながら、ニンマリ笑って去っていく。


 義兄はそれをわざわざ言いに来てくれたのだ。

 ユリアスの冷たくなっていた心が、少し暖かくなった。

 と同時に、脳裏に少しだけラザフォードの姿が浮かんだ。

 そうか、彼は少しだけ義兄に似ていたのだ、と思う。

 そう……少しだけ……


 でも、そんな彼が今どうしているのか、ユリアスは想像すらしない。

 きっとこの先彼に会うこともないと、心に決めていたから。

 



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