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故郷①

 気づかぬうちに寝入ってしまっていたらしい。

 目を開けると、太陽が少し顔を出しはじめ、その光が草木についたつゆを照らす。

 白い霧がかかる世界に宝石のようなキラキラした粒たちがきらめいていて、とても幻想的だ。

 大きく息を吸い込むと、だれにも汚されていない空気が鼻を通り肺に流れ込む。

 ドロドロとしたものがクリアになっていくようで、しんとした静寂と冷たい空気が心地よかった。


 ユリアスは起き上がると、小さくなった火を大きくする為、枯れ木を足し、水筒からポットに水を注ぎ湯を沸かした。

 その間に、顔を洗うために近くの小川へ行った。

 川に手を入れた瞬間、凍りつくような冷たさで、身震いする。

 意を決して両手をつっこみ、ばしゃばしゃと顔を洗った。

 うつろな意識が、瞬時にはっきりとする。

 顔を数回バシバシ叩いて、気負いをいれ、元の場所にもどり、簡易の朝食をとった。


 そして、すべての荷物を片付け、火の始末を終えると、馬にまたがり、ひたすら森の中を駆けた。

 ユリアスは休憩をしながら、自分の故郷の西領へ向かう。


「おや? これはこれは、ユリアス坊っちゃんじゃないですか?! 王宮へ行ってたんじゃなかったですか?」

「ジョゼフさん、こんにちは。そうですよ。ほら、僕って出来損ないだから、クビになっちゃったんですよ。やっぱりここでのんびりするほうが性に合ってるっていうか」

「みんな、坊っちゃんに会いたがってますよ」

「ありがとう」


 関所の役人のジョゼフは、小さいときからよく遊んでくれ、当主の義父の幼馴染だ。

 西領の関所に仕えている役人は、ほぼ全員ユリアスのことを知っているので、他の関所にくらべてスムーズに手続きを済ませてくれた。

 通行書を胸のポケットにしまって、ユリアスは故郷の街へ入っていく。


 

(やっぱり、気まずいな……『側仕え』を辞めてきたってことは、まだバレないだろうけど……)


 そう、ユリアスはクビになったわけではなく、『自主退職』してきたのだ。

 この事実を知ったら、当主はなんというだろう?

 ただでさえ名誉や威厳が地に落ちかかっているのに、今度こそ他の公爵家から爪弾きにされてしまう。 

 もしかしたら、公爵という爵位も剥奪になってしまうのではないか?

 流石にラザフォード殿下はそんなことはしないとは思うが……周りがそれを許すだろうか?

 皇子に反旗を翻したと思われ罰せられるのでは?


 考えれば考えるほど、屋敷には戻りづらくなっていく。

 フレデリックの手綱を引きながら、街をぐるぐるまわる。


 時刻は昼過ぎ。

 雪が間もなく降り積もる時期だから、今やって置かなければならない家の修繕やら、食料の備蓄などやることは山のようにある。

 だから、帰ってきたユリアスに目を向けるものは今のところ関所の人間だけ。

 これはある意味ありがたかった。

 屋敷に帰るより、近くの宿で滞在して、今後のために時間を稼ごうかと心が傾き始めた、そんな時―――


「ユリアスお兄様!!!」

「うぁっつ!」


 背後からいきなりタックルされ、ユリアスは地面に転がる。

 

「ナ、ナナリー……、どうしてここに?」

「それはこちらのセリフです。帰ってくるならもっと早く知らせてほしかったです」

「えっと、ごめん。急なことだったから。ナナリー、元気そうで何よりだ」

「ユリ兄様も。会いたかった」


 ぎゅっと首元にしがみついてくる義妹に「僕もだよ。でも、ナナリーちょっと街中だから、離れてくれるとうれしいな。通行の邪魔になってしまうから」

「あ、ごめんなさい! つい、うれしくて………」


 頬を赤らめ、ナナリーはぱっと手を離し、立ち上がった。

 せっかくのきれいなすみれ色のドレスの裾が汚れてしまっているが、彼女はそんなことなんて気にせず、ユリアスの服についた泥を一緒になって払う。


「ナナリー、手が汚れてしまうから、大丈夫だよ」

「ごめんなさい。早く屋敷に戻って、着替えてくださいね!」

「ナナリー……もしかして、わざとやったろう?」

「何がですか、ユリ兄様?」


 ユリアスは、してやられたと、大きくため息をついた。

 聡明な義妹は、ユリアスが屋敷に帰ってこないことを察知して、先手を打ってきたのだ。


 

 






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