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交錯する思い⑥

 ユリアスは、持っている松明をナナリーに預け、ポケットから小刀を取り出した。


「おい、小僧、早くお前の魔力を渡しな! さもなければ、この娘をお代としてもらっていくぞ!?」

「君にはそんなことできないでしょう? 道案内した『対価』が『人間の子ども』だなんて、不釣り合いにもほどがある。釣り合う対価じゃないと君たちだって体を壊すよ? それでもいいわけ?」

「っつ―――! 可愛くないガキだ! じゃあ、何か? お前さんは払わずに逃げようと言う訳かい?!」

「そんなことは言っていないし、払わずに逃げるつもりならとっくに逃げてるよ?」


 ユリアスは淡々と事実を述べていく。

 それが精霊の感に触り、精霊のまとう光の色は青から赤へと変化していった。


 ユリアスの声しか聞こえないが、ただならぬ気配は少し感じているナナリーはハラハラと、そんなユリアスを見つめていた。

 闇はどんどん深くなるばかり。

 夜が深まれば、どんどん帰るのは難しくなる。

 だから、ユリアスは小刀を自分の左の手の甲に当てて、シュッと引いた。


 ポタポタと赤い血が地面に垂れ、染みをつくる。


「ユリ兄! 何をしてるの!? 血が!!」

「ナナリー、大丈夫」

「で、でも!!」


 ニコリとユリアスは微笑み、その血を赤くなった精霊へ向ける。


「これが対価。行き帰り分の道案内分の。片道だけだったら、多すぎるでしょ? 」


 精霊はポタポタと地面に落ちていく血を物欲しそうに見ながら、「お前の思い通りには動かない!」と声を荒げた。

 でも、その意志は目の前のご馳走を前にしては敵わない。

 魔力をもった人間自体に会ったのだって、何十年ぶりだろうか。

 これを逃しては、つぎはいつ魔力にありつけるのだろう?

 精霊の中で、損得勘定が働く。


「あ〜あ、もったいないよ? 血って鮮度が命なのに、ほら、もう固まってきちゃった〜」

「あ”〜!! わ、分かった。仕方ないね、お前の言うとおり、その血を引き換えに案内してやる!」

「そうこなくっちゃ。ありがとう」


 そう言うと、精霊はユリアスの手の甲から流れる血をぺろぺろ舐め始めた。

 魔力は血に髪に宿ると言われる。

 そして、髪よりも血のほうが貴重で強い。

 

 ユリアスの魔力を得た精霊は、さっきよりも強い光を放ちながら、ユリアスに「ほら、ついてきな!」と言い放った。

 ユリアスはナナリーから松明を受取り、右手でナナリーの手を握って「さ、みんなのところへ帰ろう!」と微笑む。

 そして、暗闇を二人は突き進んだ。



「ナナリーお嬢様!!」


 森を抜けると大人たちが松明を照らして、走ってきた。

 ナナリーに怪我がないとわかると、みんなホッとした顔で「よかった」と口々に言った。

 知らせを聞いて駆けつけた、父親である当主は「みんな、迷惑をかけてすまなかった。ありがとう」と住人たちに頭を下げている。


 ユリアスはそんな光景を見てほっと息をつき、自分はその輪には入らずそっと一人抜けて、屋敷の方へ歩いて行く。

 すると、後方から「ユリアス!」と呼ぶ声が聞こえた。


「兄上……」

「お前がナナリーを見つけてくれたんだろう?! なんでコソコソ一人で帰るんだよ!」

「いや……だって、僕は、関係ないから」

「関係あるだろう!! お前のお陰でナナリーは無事だったんだ。ちゃんと父上にも報告しないと」

「しないでいい!」


 掴まれた腕をユリアスは振りほどき、叫んだ。

 そして、目を見開いて驚くレオンハルトに向かって言う。


「僕は……本当の家族じゃないから、いいんだ。みんなが幸せだったらそれでいい……」

「何言ってるんだよ! お前も、家族だ。ずっと……家族じゃないって、思ってたのか? だから、そうやって出来ないふりばっかりやってるのか? そんなことやめろよ! あの問題だって、本当はお前が一人で解いたんだろ!?」

「………」


 やっぱり、レオ兄は簡単にだませないか…と、心の中で笑う。

 レオンハルトは真剣に向かい合ってくれるのに、ユリアスはそれができない。


「出来ないフリをしたって意味ない」

「意味はあるよ。僕は……みんなが大事にしているものを壊したくない。僕のせいでみんなが悲しむのは嫌だ。父上も、母上も、兄上に魔導家当主になってもらいたいんだ。僕だってそう思ってる。だから、僕が変に目立つのはよくないよ」

「だからって―――」

「家族って言ってくれてうれしかった。ありがとう、レオ兄」


 そう言い残してユリアスはレオンハルトに背を向け去っていった。


 

 


 

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