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交錯する想い⑤

ナナリーを屋敷の者と街の人とでずっと探しているが、全然見つからなかった。

時間だけが過ぎていき、気温もどんどん下がり始めてきた。

冬がすぐ近くまでやってきている証拠で、さすがに外套(がいとう)無しでは辛い。

おそらく何も持たずに飛び出したナナリーは寒さで凍えているはずだ。

意地を張らずにさっさと出てこないと、凍え死んでしまう。


(一体……どこへ行ったんだろう……)


大人に言われた通り、ユリアスは渋々屋敷の方向を目指し歩く。

自分が動き回って、他の人に迷惑をかけるのはよくないと、自分に言い聞かせるが、心をうまく屋敷へ向かせることが出来ず、気づけば誰もいない方向へ走っていた。


上がった息を整えながら、ユリアス自分の胸に右手を置いた。

そこは誰もいない森の入り口。

全てのものを飲み込むかのような暗闇が広がっている。

そっと足元に松明を置き、闇に語りかけた。


「夜を司る精霊よ、我が願い聞き届けよ。我をかの者の所へ導きたまえ」


ユリアスの言葉が終わった瞬間、青白い掌ぐらいの光が現れ、ふわりふわりとユリアスの頭上を旋回し、スッと森の中へ入って行った。


ユリアスもその光はに続いて森の中へ。


「ナナリーは森に入ったのか? あれほど森は一人では入るなって言われてるのに!」


この森は街の者から恐れられている森。

夜に一人で入ったら、精霊の餌食にされてしまい、二度とうちへ戻ることが出来ないと、小さい頃から親にどの子どもも聞かされている。

実際に何人かいなくなってるという話もあったりなかったり……


魔力持ちのユリアスですら、入るのをためらってしまうぐらい『何か』があると感じるのだ。

だから一層ナナリーのことが心配になった。


「ナナリー、どこだ?」

『坊や、そんなに慌てなくともお嬢ちゃんに合わせてあげるから、大丈夫よ〜。その代わり、わかってるわよね?』


青い光が急に、手のひらサイズの人型のトンボの様な羽根が生えた姿に変わった。


左手でその精霊を乗せて「分かってるよ」と頷くと、「ほんとよろしくね〜あんたみたいな魔力の持ちは貴重なんだから〜」と言ってまた、ふわっと前を飛んでいく。


ユリアスは、松明を掲げながらナナリーを呼ぶ。

先導してくれる精霊とは別の何かの気配がたくさんするこの森は、あちら側にすぐ通じてしまう。

意識を一度手放すと戻ってこれない。

ユリアスは本能的にそれを感じた。

幸いナナリーは魔力持ちではないし、霊感もない。

だから、連れて行かれる確率は低いのが、せめてもの救いかもしれない。


「ナナリー! どこにいるんだ? いたら返事……」

「ユリ兄……?」


松明を高く掲げると、大きな木の幹にうずくまる女の子が見えた。


「ナナリー!!」

「ユリ兄!!」


ガシッと胸にしがみついてきた女の子は間違いなくナナリーだった。

どうやら怪我はしていないらしい。

本当に良かったと胸をなでおろし、ごめんなさい、と泣きじゃくる彼女の頭をそっと撫でてやる。


「みんな心配しているから、帰ろう」


しっかりと手を繋ぎ、ユリアスは元来た道を戻ろうと振り返った瞬間、光の精霊が手をユリアスに差し出している。

ユリアスが眉をひそめると、「早く、お代をちょうだいよ! 私の仕事はここまでだからね!」とユリアスに迫ってきた。


「君がいなくなると帰れない。だから、森を出るまで案内してほしい」

「そんな虫が良い話あるわけないでしょ? さ、早く!」

「困ったなぁ……」


 ため息をつくユリアスの隣で、ナナリーがぎゅっとユリアスの服の裾を握ってブルブル震えていた。

 羽織っていた自分の外套がいとうをナナリーにかけると、「何か…いるの? おばけ?」と泣きそうな顔で聞いてきた。


「おばけじゃないよ。ここまで道案内をしてくれた精霊」

「青い光が?」

「そう。この森にはいろんなモノがいるんだよ。ナナリーには見えないけど、僕には見えるんだ。彼らにとって、ここは家みたいなものだから、むやみに入って荒らすのはよくない。ナナリーだって自分の部屋をぐちゃぐちゃにされるのは嫌だろう?」

「うん、いや……」

「だから、静かに帰ろう。大きな声を出したら、みんな起きちゃうから」


 ユリアスは今にも泣きそうなナナリーをなだめながら、目の前の精霊をどうやって説得するかを考える。

 下手したら、ナナリーに危害を加えかねないから、さっさと言われたとおり、「お代」を渡したいところではあるが、そうすると帰り道がわからなくなってしまう。


 この森を抜ける魔法は自力では無理だと、「もう一人の自分」が言っている。

 こういう『力加減』もユリアスは誰に教えてもらったのかという記憶がなかった。

 でも、必要なときに頭の引き出しから必要な知識が出てきて、脳内で計算が始まる。

 魔法を発動させるときはいつだってそう。


 人は何度も転生を繰り返しているのなら、きっとこれは前世の人たちの『記憶』なのだろう――

 

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