交錯する思い④
自分のしてしまった事の重大さに気づいたユリアスは、すぐさま「すみませんでした!」と頭を下げた。
義父は眉間にしわを寄せユリアスを見下ろしている。
その後ろで青ざめていた義兄も眉間にしわを寄せじっとユリアスを見つめていた。
ユリアスは深呼吸して、覚悟を決め、判断が鈍らないよう一気に言い放った。
「全部ウソなんです。自分でその問題を解いたというのは……みんなの気を引きたくて……それで…、本当にごめんなさい。こんな大事になるなんて思いませんでした。本当にごめんなさい」
「じゃあ、誰がこの問題を解いたのか?」
「それは、中央から来た役人様に……」
「役人? ああ、皇子の使いとか言って偵察に来た彼か。でも、どうして、今まで黙っていたんだ!? 街中じゃ大騒ぎなんだ」
「本当にごめんなさい」
なんとかごまかせた――謝りながら、ユリアスは内心ホッとした。
これで、義兄に迷惑はかからない。
魔導家次期当主の座は彼のモノのまま……
たとえ、この家に置いてもらえなくなってもかまわない。
「あの、父上……」
義兄は何か言いかけたが、実の父も含め、周囲の者はだれも気づかなかった。
この一件ですっかりユリアスは一族の信用を失った。
いままで、「父親を亡くしたかわいそうな子ども」だったが、一変して「嘘つきの子」というレッテルが貼られてしまい、街を歩くたびに「嘘つき」だの、「ずる賢い子ども」だのと噂された。
ウィーゼント家からは追い出されなかったのだけが幸いだ。
使用人たちは、まるで忌み嫌うように白い目でユリアスのことを見てきたが、義妹のナナリーと義母のナターシャだけはその事件の前と変わらないようにユリアスに接してくれた。
「ユリ兄さま、これなんて読むの?」
「ごめんね、ナナリー僕にはわからないから、レオンハルト兄上に聞いてくれる?」
「え〜!? こないだまでは一緒にお本読んでくれたのに……」
「ごめんね」
これ以上問題をおこさないようにと、ユリアスはそんなやり取りをするようになった。
そんなやり取りをただじっと、レオンハルトは見ていた。
『出来損ない』でいることは実に楽だった。
だれも、自分には期待はしないし高い要求もされない。
このままずっと平凡に生きていたいとユリアスは願っていた。
注目される人生なんて望んでいない。
ユリアスにはもう一つ秘密があった。
魔導家だから何かしら不思議な力がある者がいてもおかしくはないのだが、ここ最近ではそんな力を持ったものは生まれていない。
すこし癒やしのような力があったり、天気を予想したりできる者はいたが、ユリアスの物を浮かせたり、風を操ったりする力は異常だった。
これは物心がついたころからあって、ユリアスにとっては手足を操るようにコントロールできるのだが、その力は他のものからしたら恐怖の何物でもない。
ユリアスの実の父親は、幼い頃からユリアスに「人前で使ってはいけない」と強く言い聞かせていた。
『いいかい、ユリアス。その力は人を助ける力だから、決して人を傷つけるために使ってはいけない。人に見せてもいけない。みんながその力に魅せられて、お前を利用するかもしれない。反対に悪魔の使いだと石を投げてくるかもしれない。いいかい、これは父さんとの約束だからね』
だからユリアスはこのことを誰にも言ったことはない。
そして、父が亡くなってから、一度も力を使っていない。
使わない期間が長すぎて、どうやって使っていたのか忘れかけている。
*******
「お母様、どうしてナナリーはダメなの!? ユリ兄様も、レオ兄様もお手伝いしているのに!」
「ナナリー、どうしてあなたは聞き分けがないの?! あなたは女の子なのよ。あんな危ないところへ行かせられないの。それに、遊びじゃないのよ? あなたは馬にも乗れないでしょう?」
「練習すれば乗れるもん! 」
「そういう問題ではないの。夕食抜きにしますよ!?」
「お母様なんて、大っ嫌い!!」
「ナナリー!!」
「僕が――」
ユリアスは大広間と飛び出したナナリーを追いかけた。
おそらく外に飛び出したはずだ……ユリアスは屋敷の外を探した。
「あの、ナナリーを見ませんでしたか?」
「ああ、お嬢様ならあっちの方へ走って――」
「ありがとうございます!」
太陽は随分傾いていて、薄暗くなってきている。
せめて街をうろついてくれていればいいが―――ユリアスの走るスピードは自然に上がった。
「はぁ、はぁ、はぁ……ナナリー、 どこにいるんだ!? 」
「ユリアス、見つかったか?」
「レオ兄……ううん。見つからない」
「まったく、あいつ! どこへ行ったんだ!? ユリアス、俺は北側を探すから、お前は南側を頼む」
「うん」
そういって、ユリアスは北側の街を探していくが、ナナリーは見つからない。
随分暗くなってしまった。
馬に乗ってきたほうが効率がよかったと後悔するが、いまから屋敷へ取りに行くほうが手間だった。
あまりにも見つからないので、街の男も手伝ってくれている。
「お嬢様、どこへいかれてしまったのでしょうか? こんなに探してもいないなんて。まるで神隠し……」
「おまえ! 縁起でもないことを!」
「だってぇ……」
街の人達がそういうのも無理はなかった。
街はそんなに大きくないし、まだ幼い女の子の行動できる範囲なんてたかが知れている。
体が小さい分、見つからないようにどこかに隠れているのかもしれない。
ワォーーーン……
ワォー―ン
遠くで狼らしき遠吠えが聞こえる。
火も持たずに暗闇でさまようのは自殺行為。
ユリアスはそう周囲の者から言われて、松明を片手に持たされた。
「お前さんは、屋敷に戻りなさい、ユリアス。我々でお嬢様をお探しするから」
「でも――」
「ミイラ取りがミイラになるぞ!?」
そう言われて、ユリアスは渋々屋敷の方向へ向かわされた。




