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交錯する思い③

 その後どうやって荷物を取りに行ったのか覚えていない。

 レイフォードが去った後、しばらくその場に座り込んでいた。

 陽が陰ってきたので、ノロノロと立ち上がり、王宮へ向かったまでは覚えている。


 気づけば、自分は着替えていて、荷物も手に持って白馬にまたがって、王宮を後にしていた。

 どれ位走っただろう?

 馬も流石に疲れて、速度が落ちてきたので、馬を休ませるために近くで野宿をすることにした。

 

「フレッド、疲れたろう?」


 たてがみを優しくなでてやると、鼻を顔に近づけてきた。

 どうやら心配してくれているようだ。

 自分の額をフレッドの鼻筋にそっと当てる。


 「大丈夫だよ。色々ありすぎて、疲れているだけなんだ」


 ユリアスは集めた小枝と枯れ草に火を付け暖をとり、簡易のテントを組み立てた。

 カバンから軽食のパンとチーズを取り出し、ナイフで切る。

 火にかけていたやかんから温かいお湯を茶葉を入れたカップに注いだ。

 昼間とは違い、凍えるような寒さだ。

 冷たい空気がユリアスたちを包んでいる。

 うっすらと霧が出てきた。


「賢者……って言われても……全然…わからない。どうしたらいいのか……」

 

 「はあ…」と吐いた息が白く染まって、消えていく。

 空を仰ぎ見ると、三日月の月と満点の星が瞬いていた。


 ラザフォード殿下は自分が賢者だと知っていたから、クビにせず、側仕えとしておいていたのだろう。

 きっとそれは、父の死とも何か関係があるに違いない。


「結局、僕自身なんてだれも見てくれないんだな……殿下だけは違うって思っていたのに……」


 ユリアスはぐっと両腕に顔を埋めた。



               

                    *******




 父親を亡くしたユリアスは、父の兄である魔導家当主トラヴァスに引き取られた。

 トラヴァスには息子と娘が一人ずついたが、ユリアスを彼らと同じように分け隔てなく育て、教育を施した。

 彼の妻であるナターシャも同じで、実の子どものようにユリアスを扱ってくれる。

 幼子ながら、それがとてもありがたいと思い、彼らの期待に応えられるよう悲しみを堪え、この家に慣れるよう努力した。


 しかしその一年後、ちょっとした事件が起きた。

 

「ユリアス坊っちゃん……それを、きみが解いたのかい?」

「はい、先生」

「こ、これはすごい……レオンハルト様でも、解けなかった問題を……」


 たまたま、書庫の机に置いてあった数学の問題を、まるでいつもやっているパズルを当てはめるかのように、ユリアスはいとも簡単に解いてしまった。

 それが、どういうことになるのかをユリアスはその時は予想だにしていなく、なんの疑いも持たずにはっきりと答えた。


 義兄のレオンハルト専属の教師が目を見開かせ、部屋を飛び出し、このことを家中の者に言いふらした。

 それだけならまだしも、「この子は天才だ!」と街中の知り合いに、ユリアスをあたかも自分が教えているかのように吹聴ふいちょうして回った。

 このことはすぐさま、当主であるトラヴァスの耳にも入り、「本当なのか?」とユリアスは問い詰められる結果になる。

 

「ユリアス、お前が本当にこの数式を解いたのか? 誰かに教えてもらったんじゃないのか?」

「えっと……それは……」

「これは士官学校の教授から取り寄せた特別な問題なんだ!」


 義父の強い視線から目をそらすと、視界に青ざめている義兄の姿が入ってきた。

 ぎゅっと唇を噛み締め、拳を握りうつむいている。

 賢いユリアスはすぐさまそれがどういうことなのか理解した。

 

 つまり、これは士官学校へ入学するための試験問題の一部で、義兄を試すものだったのだ。

 そうとも知らず、ユリアスは解いてしまった。

 それを解けなかった義兄よりユリアスのほうが適正があると周囲に判断されかねない。

 義兄は魔導家の次期当主候補だ。

 このことが公になり、士官学校へ入学できなかったら、その立場を揺るがしてしまう。

 ずっと、だれよりも努力して頑張ってきたレオンハルトの顔に自分が泥を塗ってしまった。


 ユリアスは自分がしてしまったことの重大さを実感した。

 



 



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