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交錯する思い①

 東宮にフラフラと戻ったレイフォードを見つけたカイルは「どこに行っていたんだ!? この忙しいときに!」と眉間にしわを寄せ、詰め寄った。

 いつもならヘラヘラと交わしてくるレイフォードなのに、「ちょっと……。殿下は?」と弱々しく聞いてきた。

 どう見ても様子がおかしい。


「執務室だけど? お前、どうしたんだ? 熱でもあるのか?」

「………」


 レイフォードはカイルの質問に答えず、またフラフラした足取りで執務室へ向かった。

 ノックをすると中に主であるラザフォードが立っていた。

 

「早く入れ。なんだ、レイフォードか、ユリアスの様子はどうだった?」

「…………」

「おい、聞こえてるのか? レイ?」

「すみません、殿下……私としたことが」

「なんだ? 急にかしこまって。二人でいるときは敬語は使うなと言っているのに、どうした?」

「申し訳ございません」


 深々と頭を下げるレイフォードに、「一体何事か?!」とラザフォードは首をかしげた。

 普段任務は確実に遂行する完璧な側近が、こんな謝罪をするなんて……一体……?

 ラザフォードは頭をフルに稼働させ、可能性をピックアップする。


「今朝の書簡を渡し間違えた?」

「いいえ。ちゃんと届けました」

「大臣たちに何か情報を漏らした?」

「いいえ、口が裂けてもそのようなことは……」

「じゃあ、侍女たちと駆け落ちしたいとか?」

「……たとえそんなことがあっても、あなたに言っては駆け落ちにならないでしょう?」

「そうだな。じゃあ何なんだ!? まさか、ユリアスに過去を喋ったとかじゃないだろう?」


 笑いながら言うラザフォードとは裏腹に、レイフォードの目は死んでいた。

 静寂が執務室を襲う。


「ま、まさか…だよな? 今の今まで、俺達がどんな思いで死守してきたと思ってる? 本人が思い出すまで、絶対に伝えてはならないと…あれほど念をおしていたのに? えっ?! ま、まさか、このタイミングで?」

「ラズ、全て言ったわけではないんだ! その、賢者だということだけ……」


 ガンっつ――――


 ラザフォードは勢いよいよく立ち上がり、机の向かいに立っているレイフォードの胸ぐらを掴んだ。

 その瞳は一ミリも笑っていない。


「おまえ―――それが、どういうことか、わかってるのか!? あいつがおかしくなったら、この国は終わるんだ! あいつ自身も全部!! 今まで守ってきたものが全部、消え去るんだぞ!?」


 レイフォードは、キリキリと締め付けられる喉から絞り出すように「も、申し訳、ござい…ません……」と言った。

 我を失っているラザフォードは、なかなかレイフォードを離そうとはしない。


「ちょっと! 何をやってるんだ!? ラズ! 離さないとレイが死ぬぞ!!」

 

 ただならぬ雰囲気を察したカイルが、部屋に入るなり、二人の仲裁に入った。

 カイルのおかげて、我に戻ったラザフォードは勢い良くレイフォードを離し、机に拳を打ち付け「くそっ……」と悪態をつく。


 ゴホゴホと咳き込む同僚の背中を擦りながら、カイルは言いにくそうに、

「ラズ、内輪で揉めている場合じゃない。大変だ! 小麦泥棒の犯人が検挙された。その犯人が第一皇子の差し金だと証言しているらしい」と、今しがた入った情報を伝え、すぐに大広間へ行くよう指示した。


 まだ、頭が冷えていないラザフォードは「なんで俺なんだ!?」と、カイルを睨みつけたが、「あなたがあの森をうろついていたと証言するものが現れたんです!」と泣きそうな顔で言うので、事態の重大さを改めて認識した。


「……俺の考えが甘かったんだな……、まさか、このタイミングで証言者が現れるなんてな……どこまで俺は神に見放されてるんだろうな」

「ラズ……」


 そう言い残し、ラザフォードは大広間へと向かった。

 



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