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忍びよる手③

 中に入ると、天窓から白い優しい光が差し込み、大理石の床を一層照らしていた。

 女神の使いと言われるサキヨミの巫女が住まうのにふさわしい場所だ。


 本当に一人で行って大丈夫なのだろうか?

 何かの罠じゃないのだろうか?


 恐る恐る前へ進んでいくと、天井から真っ白な薄いカーテンのような御簾みすのような物が現れた。

 その布が透けて奥に人影が見える。


「ようこそ、本殿へ……」


 急にカーテンが左右に引かれ、その人物と対面する。


「あなたが、サキヨミの巫女さまですか?」

「ええ、そう呼ばれています。ユリアス様」


 目の前に現れたのは、自分とさほど年が変わらない少女だった。

 腰まで長く伸ばされた髪は銀色で、その肌は陶器のように白く、触れたら壊れてしまいそうな……

 でもグレーの瞳には強い光が宿っていて、ただか弱い少女という訳ではなさそうで、しっかりとその瞳はユリアスの姿をとらえている。

 純白のシルクの艶やかな衣装は足元まであり、女神の使いにふさわしい装い。

 神々(こうごう)しいとは、まさにこのことだろう−−−ユリアスは心の中で思った。


 2メートルほど離れた距離。

 シャン−−−と、巫女の衣装につけられている鈴の音がこの白い空間に響き渡った。


「どうして僕を?」

「あなたがこれからどうするつもりなのかを聞きたくてお呼びしたのです。命運を握る鍵ですから」

「僕なんかが命運を握る存在になんて……誰かと勘違いしてませんか? 僕は魔導家当主の次男坊なだけですよ?」

「本当にそうなのですか? ラザフォード殿下はあなたにとても執着しておられる」


 シャン……シャン……


 とても不思議なものを見るかのような顔でゆっくり、サキヨミの巫女がユリアスの元へ近づいた。

 そっさにユリアスは一歩足を引くと「何もしないわ……怖がらなくても大丈夫……」と笑った。


「とてもよく似合っていますね。さすがね。あなたも、私の侍女も」

「お褒めいただき……嬉しいです」

「ふふ……こんな格好をさせられるなんて不本意だったでしょうけど、これしか方法がなくって。ごめんなさい」

「……いえ。僕もあなたに聞きたいことがあったので、ちょうどよかったです」

「それは『サキヨミ』の力についてかしら?」


 無邪気に笑いながら、サキヨミの巫女と呼ばれた少女は両手を広げユリアスの周りを回転する。

 軽やかにステップに合わせて、鈴が鳴る。


「その『サキヨミ』の力は『未来予知』の力ですよね? それはどんな未来も予測できるのですか?」

「そんなわけないでしょう? 未来は神のみぞ知る−−−サキヨミの力は子ども騙し程度よ」

「具体的には−−−」

「そうね、そう遠い未来は見ることができない見ることができるのは、せいぜい1、2年ってところね。そして、見たいと思う未来はあまり見ることができないの」

「つまり、あなたの意思とは関係ない未来しか見れないと?」

「まぁそういうことよ。本当に知りたいことは知れないの。特に私と関わる者の未来は難しい……」

「その力は生まれた時からあるんですか?」

「そうね……物心ついた時にはあったと思う。でもそれをはっきりと自覚したのは私が5歳の時」

「その力を持っているのは、あなただけでしょうか?」


 質問攻めにしていることを自覚しながら、ユリアスは相手に構わず続けた。

 サキヨミの巫女は、「質問ばかりね……まぁいいわ」と半分諦めたように、近くの椅子に腰掛ける。

 そして、目の前の椅子に腰掛けるようユリアスに指示をした。

 ユリアスが座るのを待って、サキヨミは質問の答えを返した。


「正式にはわたくし一人よ。たった一人、この鳥かごに閉じ込められて過ごしているの。そろそろ、質問する側を交代してもらってもよろしいかしら? あなたはラザフォード殿下を皇帝にするつもりなのかしら?」

「私はもう側仕えではないので、その件に関しては−−−」

わたくしはシュナイゼル殿下を皇帝にしたい」


 シャン−−−−−−


 大きな音が鳴り響いた。

 窓から降り注ぐ光がかげり、部屋が薄暗くなる。


 あまりに強くはっきりしたその言葉にユリアスは、言葉を発することができない。

 ユリアスの言葉を待たずに、サキヨミの巫女は続けた。




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