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嘘と真実⑤

「元気にしてたの? また、この間みたいに喧嘩したりしていない?」

「していませんよ。あれはあちらが仕掛けてきたから交戦しただけです」

「そんなこと言って。ケインは公爵家の人間を見つけるたびに歯向かってるじゃない」

「それももう止めました。少しでもあなたの側にいたいから」

「……ナイトレイ家の者があなたのところにも来たのね」

「お嬢様のところにも?」


 目を見開き、目の前の小さな少女を見つめると、彼女は自分を見ていなかった。

 伏し目がちに「ええ、私のところにも……」とか細い声で答えるその姿を見て、心の中で抑えていた怒りが爆発しそうになる。

 それに気づいてか、シルフレイアは「私は大丈夫だから。平気よ!」と冷たくなっていた両手を握りしめてきた。


「ダメです。奴らはあなたをも巻き込んで、利用しようとしている。それだけは許せません」

「違うわ。わたくしたちが、あちらを利用しているのよ。わたくしたちが一緒にいられる時間は短い。少しでも一緒にいられる方法はもうこれしかないでしょう? だから、必ずあなたは彼らに従ってね。お願いよ」

「お嬢様……」


 さらに一層強く手を握りしめるその手は、かすかに震えていた。

 今はただ、上からその手を握りしめて温めることしかできない。

 そんな自分が情けなくて、仕方がない。

 目を潤ませ震える肩を抱き寄せることすら自分は叶わない存在なのだ。



 気づけば雨が止んでいた。

 雲の切れ間から、うっすらと三日月が顔を覗かせ、地上を少しだけ明るく照らす。

 その光で草木についている雫が反射し、幻想的な雰囲気に包まれた。

 そんな景色を一緒に眺めていられる時間はもう二人にはない。

 いっそ時がこのまま止まってしまえばいいのに……重ねた手を再びギュッと握りしめ、そしてゆっくりと離していく。


「もう行かないと……会えてよかった」

「ええ。また来ます」

「気をつけてね。おやすみなさい、ケイン」

「はい。おやすみなさい、シルフレイア」



 彼女は外套がいとうをひるがえし、音を立てないよう静かに階段を登っていく。

 彼女の姿が見えなくなるまで、その姿を眺めるのがもう習慣になっていた。


 これもあと少しの辛抱だ。

 もう少しすれば、自由に彼女に会いに行くことが叶う。

 そう心に刻み振り返らずにケインはその場を後にした。





                ***********




 ユリアスが目を覚ました頃には、レイフォードはすでに出かけたあとだった。

 だから、お礼の一言も、これから自分がしようとしていることも告げることはできず、一人、鞄を持って宿舎を出る。


 外は吐いた息が真っ白になるほど、ものすごく寒い。

 鞄からローブを出して羽織り、教会へ向かう。


 不思議な夢を見ていた。

 いつもは見た夢なんてすぐ忘れるのに、昨日の夢ははっきり思い出すことができる。

 その夢のおかげて、心にかかっていた霧が少しだけ晴れて、前に進める気がした。

 自分がやるべきことはただ一つ−−−「小麦泥棒の黒幕を見つけること」

 そして、あの集落を存続させることだ。


 なぜそこまでして、自分があの集落に固執しているのかはっきり説明できないが、自分の中の第六感が、守れと言っている。

 自分の中で、それができればずっと探していたものが見つかる気がした。

 


 西領に戻って薬草を買った人物を特定したほうが早けど、その前にユズリ草かスズランカのどちらなのかを特定しないと……


 ユリアスはため息をついた。

 それらの植物があるのは東宮でラザフォード殿下の執務室と繋がる中庭だ。

 つまり、それを調べる為にはラザフォード殿下に会って許可を取る必要がある。

 自分から職務を辞して、再び戻るなんてしたくはない。

 


「どうしたら会わずに済む?」


 う〜ん、と唸り声をあげながら、教会の手前の門で行ったり来たり。

 他の兵士やら官僚たちから見たら、邪魔でしかないが、みんな他人に構っていられるほど暇ではなかった。

 いよいよ次の皇帝が決まるということで、各省庁もそれに向けて色々準備に追われている。

 そんな中で声をかけてきた人物−−−それは、教会付き騎士のイザベラだった。


「おや? ユリアス殿じゃないか? 久しぶりだね、どうしたんだい?」

「あ、イザベラさん、お久しぶりです。まあ、ちょっと……」

「聞いたよ、側仕え辞めさせられたんだって?」

「辞めさせられたんじゃなくて、自ら辞めたんです!」

「え? そうなのか? 教会内じゃ、また殿下が辞めさせたって噂になってるよ」


 さすが城内の噂は早い。

 そして、ぜったいに尾びれ背びれがついている。

 まあ、想定内のことではあったので、別に特に何かするつもりはないし、どちらにしろもう側仕えではないという事実は変わらないからそっとしておくことにしよう。


「そうですか……早いですね、情報が回るの」

「これからどうするんだい? 領地に帰るのか?」

「あ、はい……でもちょっとやり残したことが東宮であって、どうしたものかと悩んでるところです」

「忘れ物?」

「まあ、そんなところです」


 ユリアスの頭のてっぺんから爪先まで耳回し、イザベラは「はは〜ん、殿下に気まづくて東宮に行けないってわけかぁ〜」と小さい声で囁いた。

 そこまで読まれては笑うしかない。


 っと次の瞬間、イザベラはいきなり、ユリアスの顔を近づけた。


(えっ−−−−−−!?!?)


 そして、ユリアスの頬に手を添え、ゆっくりと顎まで滑らせ、人差し指と親指で顎を掴みクイっと上を向かせる。


 ユリアスの方が少し身長が低い。

 だからイザベラを見上げる形になっている。


 もっと自分の身長が高ければ、顎を掴まれることもないのに……

 シュナイゼルの殿下にも同じ目に合わされたことを思い出し、自分の背を恨めしく思いながら、視線をイザベラに合わせた。


 美しい顔が目と鼻の先で、自然と心臓の鼓動が速くなる。

 持ってい鞄の取っ手がするりと手から滑り落ちた。

 

 明らかに動揺しているユリアスを面白そうに、目を細めて見つめながら彼女は「ユリアス殿なら大丈夫だろう」と独り言のように言った。

 そして、聞き取れなかったユリアスが聞き返すより先に耳元に唇を近づけ言う。


「君の願い叶えてあげられる。ただし条件がある−−−」







 



 





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