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皇子からの挑戦④

 ユリアスに用意された部屋は、それは見事な部屋で、実家である魔導家のお屋敷の、どの部屋よりも広く感じられた。


(側仕えが使うには、いささか大きすぎる気がする……)


 そう、ここは東宮の小城なのだ。

 今いるのは王都のそれも王城の一部、住み慣れた屋敷とは違う匂いと、風景。

 ああ、自分は住み慣れた土地を離れてしまったのだと思い知らされる。

 

 小城と呼ぶも、その名とおり小さいわけではなかった。

 どちらかというと、「古城」と書くべきだろう。

 ずっと昔から、代々の皇族が住んできた城だから、老朽化は進むはず。

 でも、そんなことを微塵みじんも感じさせないほど、美しい姿を保っているのだ。


 ユリアスは、自分にはもったいない部屋の天蓋付きベッドへ仰向けに横たわった。

 さすが王宮のベッド−−−スプリングに程よい弾力があり、背中が沈みすぎることもない。

 もちろん羽毛の枕もふかふかで、寝返りを打ってもすぐ戻る。

 

(ベッドだけは屋敷より快適でいいなぁ……)


 横たわった瞬間、一気に緊張の糸が切れ、どっと疲れがこみ上げてきた。

 そして、ぼんやりと天井を眺めながら、今日一日を振り返った。


(こんな毎日が続くのだろうか……。そりゃ、普通の貴族の坊ちゃんならすぐ辞めたくなるよ。あの殿下は人使いが荒すぎる。一人でやるにも限界が……)


 ユリアスは、確かに一人であの雑務を全てこなした。

 でも、本を運ぶのだって台車を使ったし、イザベラが色々教えてくれたからできたようなもの。

 全て自分の力というわけではないのだが……



「よく……わからない……な……。僕は……この先どう……なるんだろう……」


 そんなことをつぶやきながら、ユリアスは意識を手放した。



 

                 ********



 世界は大小の国がいくつもあるが、ここアストラスは西の大陸に位置する帝国だ。


 太古の昔、神から遣わされた黄金の髪をもつ男と、漆黒の髪を持つ女神がこの地に降り立ち、神の力で荒れはてた土地に雨を降らせ、川をつくり、草木を育て、人をつくり、家畜をつくったという。

 それが、今のアストラス帝国の始まりで、その黄金の髪を持つ男の子孫が皇帝一族と言われている。

 

 アストラス帝国には4つの領地がある。

 それは王宮がある帝都アルベールを中心に、東西南北で分かれており、北は商導家、南は神導家、西は魔導家、東は武道家が皇帝より、領地の統制及び統治を遣わされている。


 ユリアスは、西の魔導家当主のところの次男坊である。

 魔導家はその名のとおり、魔力をつかさどる一族で、昔は怪我や病を魔術で癒し、天災とあらば、魔術をつかって雨を降らしたり、川の氾濫を食い止めたりしたそうだ。


 しかし、今現在、そんなことができる者は魔導家一族の中にはいなかった。

 魔導家とは名ばかりで、実際に魔力をもって生まれてくるものは、めっきり減り、持って生まれたとしても、発動するにえないほどのごく微量。

 先先代の当主曰く、「血」が薄まってしまった、とのこと。

 

 魔術がつかえてこその「魔導家」なのに、使えないのじゃ、「ただの人」−−−

 近年、他の御三家からさげずまれる事態になっており、魔導家としては、いつ領地をはく奪されるのか、いつも冷や冷やしていた。

 

 そして、とうとう大問題が起きた。 

 例年稀に見る、大凶作だ。


 去年の秋から、税収を支えていた、小麦をはじめとした穀物や特産の薬草たちが、作物が日照りで全く収穫できないのだ。

 税を納めるどころか、自分たちの食料すら危うくなりつつあるのに、西の領地には、支援物資はおろか、他でとれた食料を売り歩く商人すらこない。

 それは、帝国に貢献できないものは食うべからずと言った風に……


 さすがに、魔導家当主もこれには困り果てた。

 何とか知恵を絞って、ここまでしのいできたが、このまま続けば、間違いなく、領地の民の一揆が勃発することは火を見るよりも明らかだ。


 そんな魔導家に、『ラザフォード殿下の側仕え』の話が持ち込まれ、ユリアスの父である当主自身も驚いた。

 魔導家なんて王宮から、とっくに見捨てられていると思っていたから、領地の一族の貴族たちはもちろん、仕えている民も手をあげて喜んだ。


 我々はまだ、皇帝陛下に見捨てられていない……チャンスが巡ってきたのだと。


 

 そんな窮地を救うべく、ユリアスは王宮に派遣された。

 魔導家の者がうまく殿下に取り入ることができれば、魔導家の未来も明るい。

 そう、魔導家当主は考えたのだ。


 

 そんな一族の一心を背負って西領から出されたのが、なぜか一番出来の悪いと評されるユリアス。

 これに一番驚いているのは、領地のみんなでも、兄弟でもなく、ユリアス自身なのだ。

 

 


 





                  




 

 

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