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嘘と真実③

 あたりを見回すと、見慣れた嗅ぎ慣れた懐かしい部屋だった。

 壁の色とりどりの花の絵と、花びらをモチーフに作られたシャンデリア。

 一年中春のような明るい気持ちになれるよう、その時々の造花に合わせて、絨毯や色々なカバーが変えられる。

 花が好きだったという母の意向が詰まったその部屋は、自分が一番好きな部屋で、家にいるたいていの時間はこの居間で過ごしていた。


 でもそれは、父が亡くなるまでの話。

 今や慣れ親しんだその家は、薬剤師を夢見る見習いたちの宿舎として使われている。

 だからこれは夢だ……そう自分に言い聞かせる。


 ふと気がつくと、暖炉の隣の椅子に腰掛けている人影があった。


「父さん?」

「やあ、ユリアス。久しぶりだね。元気にやっていたかい?」

「父さん……僕……聞きたいことがあるんだ……」


 震える手をぎゅっと抑え、心を立て直す。


「聞きたいことってなんだろう?」

「父さんが死んだのは本当に事故? 」

「それを聞いてどうするの?」


 父はずっと自分に背を向けたままだ。

 自分もまた、その背中をじっと見つめたままその場から動けずにいる。


「知りたいんだ。本当のことを」

「本当のことを知ってその先はどうなるの?」


 まるでおうむ返しにあっているかのよう。

 投げたボールがそのままのスピードで壁にあたり自分に返ってくる。 

 

「その先は……どうなるのかな……自分でも正直わからない。でも、知りたいんだ。ラザフォード殿下が本当に関わっているのか」

「関わっていたら、ユリアスは困るの? どうしてだい?」

「わからない。なんか裏切られた気分になるんだ。ずっと僕に秘密にしてきたことを」

「裏切りとは面白いね。別に秘密にしていることが裏切りになるとは思えないけど」

「どうして!? だって、ラザフォード殿下が父さんの死について黙ってるなんて、どう考えてもやましいことがあるからだって。別にやましくなければ言えたはず!」

「秘密を隠すという行為は必ずやましいことから生まれるもの? そこにちゃんとした理由があっても?」

「ちゃんとした理由なんてあるはずがない。あるはずがないよ……」

「誰かを守るために、時に人は嘘をつく。大事なことを見失いかけてるね。君は」



 急に振り返ったその人物はよく知っている父親ではなかった。

 よく見ると、髪の色はこげ茶色ではなく、黒い。


「やあ、久しぶりだね。ユリアス。いや、初めましてなのかなぁ?」

「だ、誰だ……」

「父親だと思った? ああ後ろ姿は似ているのかな? がっかりさせてしまったね」

「あの……」

「残念ながら、今の私には名前がないんだ。いいよ、好きに読んでくれて『名無しさん』でも『名前がない男』でもね」

「……どういうこと……なんでしょう?」

「急に気を使われると調子が狂うから、さっきまでのようにフランクでいこうね。ここは君の内部だよ。心の奥底、深層心理っていう感じかなぁ?」

「夢とは、違うの?」

「そうだね、似てるけどちょっと違う。でもややこしいから『夢』でいいよ」

「さっきの問いの、僕は『大事なものを見失いかけている』ってどういう……?」


 父親ぐらいの身長の痩せ型のその男は、ニコニコしながら言った。


「そのままの意味だよ。君は今、不完全な上に、不安定な存在だ。真実を見落としているってこと。物事を決めつけると、真実にたどり着けない」

「真実っていうのは、父の死のこと?」

「それもあるけど、もっと大事なことかな。例えば、そう、君とあの皇子との関係性とかね」

「僕と殿下との?! どういうことか教えて欲しい」

「それは無理な話だ。私からは何も教えられない。君は自分で見つけるしかないよ」


 ユリアスの頭の上に手を置き、ポンポンと叩きながら彼は言った。

 その手は父のように大きくて温かいけど、父ではない。


 自分は何を見落としているのか−−−?

 考えても出てくるはずのない答えだ。


 目の前のこの男はそれを知っているのに、なぜ自分はわからない。

 胃がグッと下に押されているようで気持ちが悪かった。

 それに気づいた目の前の男は「大丈夫かい?」と両肩を掴み顔を覗き込む。


「大丈夫……」

「ユリアス、君は真面目すぎる。少し肩の力を抜いて深呼吸して周りを見渡すといい。頭の回転が速いのはいいことだけど、いくつも同時に考えても答えは出ないこともある。今君が一番やらなければならないことはなんだい?」

「それは……」


 城に戻ってやらなければならなかったのは、小麦泥棒の黒幕を見つけ出すことだった。

 だから薬室に言って、薬玉の薬草の特定をして、ラザフォード殿下に報告する予定だった。

 今となってはそれは全て意味のないものになった。


「あの集落、このままいくとなくなってしまうよ。それでも君はいいのか? 頼まれたんだろう? 助けてくれって。自分の都合を優先して、このまま放っておくつもりなのかい?」

「どうしてそれを?」

「どうしてだろうねぇ。私は君の心の中にいるから、全てお見通しなんだ」

「…………」

「助けたい? それともこのまま自分の領地へ帰る?」

「助けるって約束したからちゃんと最後までやり遂げます。小麦泥棒の黒幕を突き止めて、彼らだけが悪くならないようにしないと」

「決まったね」


 自分に微笑みかけているその顔を改めて見たら不思議な気持ちになった。

 肩までの黒い髪に青い瞳−−−

 どこかで会っているのだろうか?





 

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