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嘘と真実①

「どうしてそう思う?」


 ラザフォードは笑みを浮かべ驚いたように言って場を和ませようとしたが、今のユリアスにはそれは逆効果だ。

 ユリアスはそんな主人を睨みつけながら、「真剣に話す気がないということですか?」と淡々と言った。

 その様子を見て、ラザフォードはおどけるのを止め、真顔でユリアスを見下ろす。


「『小麦泥棒の犯人が誰かを知っているか』……その答えはNOだ。私が知りたいと思っている犯人は残念ながら知らない」

「質問を変えます。僕をあの市場に送り込む段階で、あの森に山賊の集落があることを知っていましたか?」

「ああ、知っていた」

「じゃあ、この事件に『霧』と『薬草』が関係していることも?」

「ああ」

「その薬草が『ユズリ草』か『スズランカ』の可能性があることも?」

「知っていた。だから、お前に種をもらって育てるよう頼んだ」

「全部、あなたのシナリオ通りってことですね。全部わかってて、僕に指示をした。なぜですか? そこまでわかってるのなら、僕がしてきたこの2ヶ月はなんだったのですか?」

「全て必要なことだ……これからの為に……」

「これから? まだ、何かあるんですね。僕をどうするつもりなのです?」


 ユリアスの口から発せられる言葉はどんどん強く大きくなっていく。

 血が上っていくユリアスの一方で、ラザフォードはさっきと打って変わって、怖いくらい冷静だった。

 

「あなたはずっと何か隠している。あなたが、僕の父の死に関わっていることと同じように……」


 顔を上げるとそこには悲しい目をしたユリアスがいた。

 しかし、ラザフォードはその瞳を直視できず、視線をそらしながら、言葉を探す。


「シュナイゼルから聞いたのだな……そう、お前の父は、私のせいで亡くなったんだ。すまない、ずっと隠していて……」

「どうして……事故だってずっと言われてて、信じてきたのに……。なぜ隠していたんですか?」

「事実を言えない理由があったとしか、今はまだ言えない」

「今はまだって、いつになったら真実を教えてもらえるんです?! 1年後? 10年後、それとも死ぬ間際ですか? 自分の実の父親の死の理由を教えてもらえないなんて−−−僕の気持ちはどうだっていいんですね」

「そんなことは−−−」

「じゃあ、言ってください! 今、ここで!」

「…………」


 ユリアスの叫んだのと同時に、外の雨風が一層激しくなった。

 雨音と窓を揺らす風の音が二人を阻んているかのように、ガタガタと音を立てる。

 カイルは何も言えず、ただ二人をじっと見守ることに決めていた。

 ラザフォードの事情も、ユリアスの言い分もよくわかるからこそ、何も言うべきではないのだと自分に言い聞かせる。


「信頼しても、結局裏切られるんだ……」


 ポツリとユリアスの口から言葉が漏れた。

 埋まらない溝はずっと深くなるばかり。

 もうどうしたいとか、どうすべきかとかユリアスの頭にはなかった。


「側仕え、本日をもって辞めさせていただきます。お世話になりました。」


 深々と頭を下げ、淡々と言った。

 いつかこの日が来ることを、ユリアスもラザフォードもわかっていた気がする。

 出会うべきではなかったのだと。


 その時、「ユリアス、待ってくれ! 色々事情があるんだ。だから、今日−−−」二人のこの関係を終わらせないようにする為にカイルが叫んだ。

 しかし、カイルが言い終わるより前にユリアスは扉を閉めた。

 バタンと音を立ててしまった扉をじっと無言でラザフォードは見つめている。


 さすがに、これにはカイルも口出さないわけにはいかない。

 どうしてこの非常事態に、レイフォードはいないのか?!

 カイルはどこへ行ったかわからないもう一人の側近を恨んだ。


「ラズ! 追っかけなくていいのか!? ユリアス、もう戻ってこないぞ!? そうなったら−−−」

「いいんだ、もう……解放してやりたい」

「は? 何から?」

「この呪縛から。逃れられない運命から−−−」

「本当にそれで、彼の為になるのか?」


 ラザフォードは目を閉じ両手を机の上について俯く。

 もがけばもがくほど、足に縄が絡みつくような、泥沼にはまっていくような……最悪な状況を打破する気力も余力も今の彼には残されていない。

 

 








 




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