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緊急議会④

 議会が終わって、席を立とうとしたラザフォードとカイルの元に、第二皇子が立ちふさがりこちらを伺っている。

 たいして面白いことがない会議だったというのに、彼は笑みまで浮かべていた。

 明らかにめんどくさい、ラザフォードは心の中で思った。


 彼を回避するか、それとも受けて立つか−−−?


 目の前の弟よりも器が大きいと自負しているラザフォードに、「回避」という二文字もちろんなかった。

 笑みを浮かべる弟に向かってハッキリと言う。


「何か面白い話があるなら、是非とも教えて欲しいのだが?」

「珍しいですね、兄上がそんな下手したてに出られるなんて。いつも自信に満ち溢れておられるあなたが一体どうしたのです?」

「お前が何か話したそうにしているものだから、聞いてあげようかと思ってね。たまには兄弟で話すのもいいだろう?」

「ええ。でも私の話よりも今は彼の話を聞いてあげた方がいいんじゃないですか?」

「彼?」

「ええ、彼ですよ。あなたはどうして彼を側に置いているのか? それは罪滅ぼしですか?」



 シュナイゼルのその一言で「彼」が誰を指しているのかがすぐにわかった。

 ラザフォードの鼓動は急に速くなって、ちょっとしたことでは動揺しない顔に緊張の色が浮かぶ。


「一体なんのことだ?」

「とぼけるのですか? まあ、そうですよね。本当のことは彼には言いにくいですしね」

「だから、なんだと言うんだ! お前には関係ないだろう!?」

「殿下!」


 とても珍しいことが起きている−−−

 まだ会場に残っている議員たちが一斉に二人の皇子に注目する。

 声を荒げて叫ぶラザフォードを静止したカイルが、「次の予定が控えておりますので!」と間に入ったが、相手はせっかくの好機をなかなか手放してはくれない。

 我を失いかけているラザフォードをさらに畳み掛けようと、シュナイゼルは去ろうとしている二人に向かって言い放つ。



「彼にさっき会いましたよ。彼はとても見所があるから、側仕えとして欲しいと思いました。まあ、そのうちこちら側へくると思いますが」

「行くぞ、カイル!」


 ラザフォードは弟の声を背に聞きながら、薔薇の間を出て言った。



 嫌な予感しかしない……

 間違いなく、シュナイゼルとユリアスが接触し、彼はユリアスに何かを吹き込んだらしい。

 それが「何か」は、頭の中に渦巻いているものとおそらくそう違わない。

 こうなることは十分予想できたから、彼から遠ざけていたのに……


 ラザフォードの眉間の皺は深くなる一方だ。

 そんな主人に声をどうかければいいか、カイルは決めかねながら、彼の一歩後ろをただ歩いていく。


 あんなに晴れていた空が気がけば真っ黒な雲に覆われ、大粒の雨を降らせていて、自分のこの状況を表すかのようだ。

 窓ガラスに雨が叩きつける音と、靴音だけが響いている。

 それはこれからの自分たちの試練の予兆のように感じた。

 思っている以上に、事態は悪いほうへ転がっていっている。


 白い大理石の大階段を降り、ひたすら廊下をまっすぐ進み教会のを通過する。

 ここまで多くの侍従や侍女、警備兵などにすれ違ったが、今のラザフォードは彼らの会釈に気を配るほどの余裕は持ち合わせていない。

 あまりにも速く通り過ぎていく皇子に皆呆気に取られて、何事かと顔を見合わせていた。

 途中で、カイルと顔なじみの兵士が「どうしたのか?」と聞いてきたが、カイルもそれに答える余裕はなく、「すまない」と言って、その場をあとにした。


 とにかく、今はよくない自体が起きていることだけが皆に伝わっている。



「ユリアス、いるのか?」


 ラザフォードはそう叫びながら、勢いよく執務室の扉を開けた。

 しかし、部屋には誰もいない。

 近くに控えていた侍女を見つけるや否や、「ユリアスはどこへいった?」と聞く。


「ユリアス様は本日お見かけしておりません」

「帰ってきているのに、ここへは来ていないと言うのか?!」

「殿下、彼女に言ってもわかりませんって」

「じゃあ、レイフォードはどこへ行ったんだ?」

「レイフォード様は少し外へ出かけるとおっしゃっておりました」

「どこだ?! この緊急事態に! すぐに呼び戻せ! 早く!」

「は、はい!!」


 侍女はバタバタと、部屋を出て行った。

 カイルはその様子をみて、聞こえないようため息をついた。

 珍しい主人のご乱心……うつけと噂されても、このように大声で怒鳴ったりすることはなかっただけに、側で控えている侍女や近衛兵たちは内心ビビっている。



「別に、ユリアスがあちら側にいくと決まったわけじゃない。シュナイゼル殿下が何を言ったかわからないが、ユリアスだって馬鹿じゃない。そうこちらの手の内を明かしたり、あちらにつくようなことは−−−」

「ユリアスの父親を殺したのは私だと知ってもか?」

「それは……」

「カイル、お前の言う通りだった……」

「ラズ、今ならまだ間に合うよ。ちゃんとユリアスに話せばいい。今からでも−−−」

「それはどうでしょうか?」


 二人が振り返ると、ずぶ濡れのユリアスが立っていた。

 ポタポタと服から雨の雫が滴っている。

 とっさにカイルが近づき声をかけた。


「ユリアス、探してたんだ。何処行ってたんだ!? それより風邪を引くから早く−−−」

 

 近くにいた侍女にタオルを持ってくるよう指示しているカイルの間をすり抜け、ユリアスはラザフォードの元へ歩み寄る。

 

「僕は今まであなたを信じていた。どんな仕事も言われた通りに遂行して来たつもりです。でも、もうこれで終わりです。僕はもうあなたを信じられない」

「ユリアス……シュナイゼルから何を聞いた?」

「どうしてそれをあなたに話す必要があるのでしょうか?」


 ラザフォードを見つめるその瞳は、怒りと悲しみが滲んでいて、拳はぎゅっと握りしめている。

 ラザフォードは自分に向けられた怒りを受け止めきれず、目をそらしながら、「私はお前の主人だが?」とだけ答えた。


「じゃあ主人なら、ちゃんと僕の質問に答えてください。『あなたは、小麦泥棒の犯人を知っている。全てこうなることがわかってて僕に命令をした』違いますか?」


 ユリアスは、さっきよりも大きい声で言い放った。

 そんな彼にタオルを渡せずに、カイルはただただ、呆然と立ち尽くしている。



 


 





 

 

 


 







 

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