緊急議会③
「これは、先代の賢者より授かった箱である。本当に英知の力があるのならば、この箱が開けられる。つまり、賢者であるかどうかを試す箱だ。ただし、試せるのは一人一回のみ」
おそらく、ここにいるみんながずっと抱いていた疑問が解消されたはずだ。
『賢者』であるかどうかなんて、どうやって調べるのか?
自分が賢者だと偽っている人物をどうやって見分けられるのか?
ずっと気になっていただろう。
それはラザフォードの側近であるカイルですら同じだった。
『英知の力』というものがどんな力かはわからないが、それを使わないと開けられない細工がある特別な箱があれば、信ぴょう性が高まり、皆が納得できる結果になるはずだ。
あっち側がどんな手を使ってくるかわからないが、この箱がある限り変な奴らを『賢者』に仕立てあげることはできない……
それがわかって、カイルはホッと胸をなで下ろしてたが、少し前に座っているラザフォードはそうではないようで、眉間にしわを寄せ何かをしきりに考えている様子。
こちら側にさらに不利なことがあるのか−−−?!
主人の様子が変なので、ホッとできたのはほんの一瞬だった。
「この場で異議がある者は意見を述べよ!」
皇帝がざわつく皆に向かって言い放った。
皇帝の声は高い天井に反響し、ざわついていた議員たちを静まらせる。
「陛下、一つよろしいでしょうか?」
「発言を許す」
右手を挙手し発言を得たのは、第二皇子のラザフォードで、彼の顔には余裕の笑みが浮かべ立ち上がる。
「『賢者』を誰も期限以内に見つけられなかった場合はどうなるのでしょうか? 賢者となりうる人物を探し出す手掛かりがないため、かなりの時間を要するかと思います」
シュナイゼル皇子の意見は真っ当だ。
見つからなかった場合は、どうなるのか?−−−誰しもが気になることだ。
そんな質問か……というように、皇帝は鼻で笑ったような笑みを浮かべ、シュナイゼルの質問に答えた。
「『賢者』を期限以内に見つけられなかった場合、王位は現時点で継承権を持っている者以外に渡す。つまり、お前たち二人の王位継承権は剥奪となる。『賢者』一人すらを見つけられない者が、どうやってこの国を治めることができる? 代々皇帝の座を継ぐものは必ず『賢者』より力を分け与えられている。この私も先代の賢者と接触し、力を受け継いでいる。この箱がその証拠。皇帝たるもの、女神より遣わされた賢者と共にあらねばならぬ。お前たち二人は先代の『賢者』に会ったことがあるだろう? それが手掛かりだということだ」
「承知いたしました」
議会始まって何度目かのざわつきの中、シュナイゼルは静かに自分の椅子に座る。
ラザフォードと打って変わって、やはり動揺はしていないようで、むしろこの状況を楽しんでいるようにも見える。
この状況は彼にとって想定内なのだろう。
シュナイゼル以外は想定外なので、隣の者と目配せし、一体どうなるのかと口々に意見を言い合っている。
「静粛に! 他に意見、質問がある者はおらぬか?」
議長が周囲を見渡し、手を挙げる者がいないか確認する。
そして、採決を取った。
「この決定に賛成のものは起立を!」
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議会が行われている一方で、ユリアスは中庭でいつも水やりをしていた鉢植えたちをじっと見つめていた。
モヤモヤした気分は未だ晴れないが、今はラザフォード殿下の側仕えとしてここにいる。
だから、職務を遂行しなければならないし、他のことに集中してこの気分を晴らしたかったのに、それは叶わない。
目の前にある蕾をつけた鉢植えは、ユリアスの中に芽生えた主人への「疑惑」を「確信」へ向かわせた。
「やっぱり……これ、ユズリ草とスズランカだ。殿下はあの時から知っていたんだ……こうなることを。一体何を考えているんだ? 何がしたい……人をおちょくっているようにしか思えない……」
実の父親の死が、ただの事故だとずっと信じていた。
魔導家当主もそうユリアスに言い聞かせていた。
当主はラザフォード皇子が関わっていることを知っていたのだろうか?
知っていて、自分をラザフォードの元へ送ったのだろうか?
一体何のために?
一体自分に何をさせるために?
今すぐ問い詰めたい気持ちと、ラザフォードの口から聞くのを躊躇っている。
ユリアスは近くの木の幹に拳をなんども振り下ろした。
手からはポタポタと血が流れていく。
「全部筋書きがあるんじゃないか? あの皇子が決めた筋書きが……」
あんなに晴れていた空が、いつの間にか暗いあつい雲に覆われている。
空を見上げたら、ポツポツと雨がユリアスの頬に当たった。




