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緊急議会①

 シュナイゼルのいた西宮さいぐうを後にしたユリアスの足取りは重かった。

 早く薬草の正体を突き止めなければならないというのに、それすらどうでもよくなって、教会へいく途中の中庭をぽつぽつ歩いていた。

 王宮に戻ってから、いろんな情報が一気に入ってきたので、さすがのユリアスの脳も混乱している。

 噴水の淵に腰掛け、ユリアスは今までに起きたこと、言われたことを落ち着いて整理しようと自分に言い聞かせるが、感情が邪魔をして冷静になれない。


『あの人はね、人殺しなんだよ−−−−−−昔ね、クロードという彼の側近を殺したんだ』


 シュナイゼル殿下の言葉は本当じゃない。

 自分を混乱させるための言葉に違いない。

 きっと、何か誤解がある。

 あのラザフォード殿下に限って、そんなことは……


 邪念を追い払うかのようにユリアスは頭をブンブンと左右に振るが、そんなことで邪念が払われることはなく、むしろ心の中でむくむくと得体のしれないものが湧き上がってきた。


 どうして、ラザフォード殿下の肩を持つ?

 本人に聞いてもいないのに、どうしてシュナイゼル殿下の話が嘘だと言い切れるのか?

 もし、シュナイゼル殿下の話が本当なら、父さんとラザフォード殿下は顔見知りで、当然自分のことも知っているはず。

 それなのに、なぜ父のことを隠す必要がある?

 どうして、父は事故死ということになった?

 隠さなければならない秘密があるから?

 

 

 ユリアスの手には汗が滲んでいるのに、喉はカラカラだ。

 そして、ぎゅっと握られた拳がかすかに震えているのに気がついた。

 今自分の顔を鏡で見たら、きっとひどい有様だろう。


 ハッと我に返り、この中庭に誰もいないかとあたりを見回してみたが、誰もいなかった。

 いつもはせわしなく人が行き交っているのに、今日は不思議なくらい人がまばらだ。

 さっき、議会があるとか言っていたのをユリアスは、ふと思い出した。



 当事者に聞きたくとも、今は聞ける状況ではない、とユリアスの理性が言っている。

 そして、聞いたところであの皇子は教えてはくれないだろう。

 今まで、ちゃんと自分の問いに答えてくれたことはない。


 

 ユリアスは、しばらくどこを見つめる訳でもなく、ただぼーっと空を見上げていた。

 寒いはずなのに、感覚が麻痺しているのか、ちっとも寒くなかった。

 このまま風邪で寝込んでしまえたら、何も考えなくてもいいのに……そう思いながら、ため息をつき、ポケットからあの薬玉を取り出した。

 

「偶然じゃなくて、全て必然−−−これだってラザフォード殿下は知っていたんだ。どの薬草が使われたのかも、あそこに山賊の集落があることも、そして、僕がそれらに辿り着くことも……全部、主人の筋書き通り……操られていたってこと……」


 ユリアスは立ち上がり、ある方向へ向かって歩き出した。

 




                 **********



 薔薇の間は、この間ユリアスが参加する羽目になった目安箱の儀の白百合の間とは比べ物にならないくらい広くて、椅子の数も、壁から天井までの装飾も凄い。

 議員たちが座る席は議長席に向かって半円を描き均等に配置されており、一つひとつの席には座る議員の名札が置かれていた。


 緊急議会が始まるちょうど15分前……ラザフォードは議会が開かれる薔薇の間へ入った。

 同席しているカイルとは微妙な空気が流れているが、彼らは子どもではないので、表面上は何事もなく見える。

 ラザフォードが来るよりも先に、公爵家の当主たちが勢揃いしていた。

 この王宮ではほとんど見かけない、魔導家当主トラヴァス・ヴィーゼント−−−つまりユリアスの父親もいて、ラザフォードを見かけるなり、すぐさま魔導家当主が挨拶にやってきた。


 トラヴァス・ヴィーゼントは他のどの公爵家当主に比べて、優しい雰囲気というか腰が低く感じられ、口調もとても柔らかいのだが、若干、顔に緊張の色が滲んでいた。


「ラザフォード殿下、愚息が大変お世話になっております。ユリアスはちゃんと殿下の役に立っておりますか?」


 ラザフォードはそんな彼が何に緊張しているのかを察し、「トラヴァス殿、ユリアスはよくやってくれているから、こちらも助かっているよ。頭の回転も早いし、行動力もあるから」と口元を上げて伝える。


「あのぼんやりしたユリアスがですか?! 殿下、それは何かの間違いなんじゃ……あの子に仕事を任せると、日が暮れてしまうこともしばしばで、人よりも出来が悪く、一族中でとても心配しているのですよ」


 まさかの皇子のお褒めの言葉に、トラヴァスは目を丸くして、そんなはずはないとユリアスがどれほど出来損ないかをこれから議会が始まろうとしている場で説明し始めたが、それをラザフォードはやんわりと制し、「ユリアスは出来損ないなんかじゃない。そう振る舞わざるおえないのでは?」と彼を諭した。

 その言葉に、トラヴァスは眉間にシワを寄せた。


「それは……ユリアスは、我々の元では実力を発揮できないと……いう事なのでしょうか?」

「私はそうだと考えているが、こればかりは本人に聞かないとね。でも、ユリアスは魔導家を一番に考えているのは近くにいてよくわかった。一緒に過ごせてこちらも勉強になる」

 

 話が変な方向へ流れそうになるのをせき止めながら、ラザフォードはうまい感じに話をまとめトラヴァスを持ち上げる。

 さすがに魔導家当主から嫌われるのだけは避けたい。

 ただでさえ、ラザフォードには味方が少ないのだから。



「ありがたいお言葉です、殿下。あの愚息にそのような言葉をかけていただけるなんて」

「本来私に仕えるはずだった者の怪我は大丈夫なのか? 足を折ったと聞いたのだが……」

「気にかけていただきありがとうございます。しっかり療養させてもらいましたので、すっかりよくなりました。ユリアスが殿下のお役に立っていないならば、その者を改めて殿下の元へ送ろうかと思っておりましたが、このままユリアスで不足はないでしょうか?」

「ああ……後にも先にも、私の側仕えはユリアスだけだ。彼以上の適任はいない」


 その言葉に気分をさらによくしたトラヴァスは、「勿体無いお言葉です。帰ったら心配している皆に聞かせないと……」と言いながら深々と礼をし、自分の席へと戻って言った。


 



 



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