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それぞれの役割⑧

「シュナイゼル殿下は、どうして『賢者』を手に入れて『王座』につきたいのですか?」


 普通じゃない、普通の質問。

 ユリアスは全く笑わず、ただ淡々と、なるべく感情を押し殺して言った。

 

「当たり前のことを聞いてどうするのだ? 皇子で生まれた以上、王座を目指すのは当たり前だろう?」

「違いますよね? あなたは、ただ王座を目指しているわけじゃない。あなたにとってこれはゲームじゃないですか?」

「…………面白いことを言う。どうしてそう思うのだ?」

「ただ、なんとなく……そう思いました」

「お前の言う通りだよ。私にとって『賢者』探しはゲームだ。兄上を打ち負かすためのな。あの余裕でいつも高みの見物をしている男の仮面を剥がしてやりたい。あの男が負けるところをみてみたいのだよ」

「…………」


 兄の話をするときのシュナイゼルの目は冷ややかで本気だった。

 二人の間に大きな溝があることは確かで、シュナイゼル殿下はラザフォード殿下の事をとても憎んでいることがひしひしと伝わった。

 周りの取り巻き環境のせいだけじゃないようにも感じる。

 この壮大な兄弟喧嘩の勝ち負けが決まった時には、いろんなものが失われた後だろう。

 ユリアスはなぜか、とても寂しい気持ちになったので、皇子が眉間にしわを寄せそうな質問をした。

 


「王座につくために『あなたの一番大切なものを差し出せ』と言われたら、あなたは差し出すのですか?」


 予想通り眉間にしわを寄せ、じっとユリアスを見つめながら、ユリアスの意図を探ろうとしている皇子は、ふた呼吸ぐらい置きながら−−−


「ああ、差し出すさ。この魂だって差出せる。私にとって『王座』はすべてなのだ。あんな男になんか渡すつもりはない」


と、淡々と言った。


「そうですか……」とだけユリアスは告げ、「そろそろ行かなければならないので……」と立ち上がると、シュナイゼルも同じように立ち上がった。


「ユリアス、お前は兄上の過去について知っているのかい?」

「ラザフォード殿下の過去ですか?」


 扉のドアノブに手をかけるのをやめ、振り返る。

 頭の中で警告音がした気がするが、好奇心には勝てない。

 窓から注ぐ光が逆光になり、シュナイゼル皇子の表情はよく見えなかったが、声ははっきり鮮明にユリアスの耳に届いた。



「あの人はね、人殺しなんだよ−−−−−−昔ね、クロードという彼の側近を殺したんだ」



 

                  **********





 シュナイゼルはユリアスがいなくなった後も、しばらくその部屋に残っていた。

 人払いをしてあるので、物音も人の気配もない。

 静かすぎる静けさが、不気味で心地よい。

 ソファにもたれ掛かりながら、机の上に置いてあった黒いファイルのあるページを開き、出て行く直前のユリアスの顔を思い浮かべた。


 そのファイルは『ユリアス・ウィーゼントについての報告書』というタイトルが書かれていた。

 王座を勝ち取るためには、こういう調査も抜かりなくやる必要がある。

 

 ユリアスがラザフォードの側仕えとして宮中に上がった時にはすでに彼の身辺については調査済み。

 彼の弱点ももちろん周知していたので、いつどうやってこちらのカードを出すか考えていたところだった。

 あちら側も警戒しているので、なかなかユリアスと一対一で話す機会は持てずにいたので、どうしたものかと手をこまねいたちょうどその時に、まさかあちらからやってきた。

 こんないいタイミングが来るとは思いもしなかった。

 神は我々の味方なのだと、心からそう思った。

 

 

 使えるものはなんでも使う−−−



 これがシュナイゼル流のスタイルで、そこには情けや優しさなどは全くない。

 非道と言われようが構わない。

 それくらいで王座につけるのなら、安いものだ。

 口元に自然と笑みがこぼれた。



「父親の死因は事故だと思っていたが、実は自分が仕えている第一皇子を刺客から守って他界。この6年ずっと嘘をつかれていたユリアスは果たして、これからどう動くのか……。そして、あの隙のない人がどういう行動に出るのか、実物みものだな」



 誰もいない部屋で、不気味な笑い声が響き渡った。

 



 






 

 






 

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