それぞれの役割⑤
「全く……お前たちの言う通りだよ。でもね……私が話したところで、彼は聞き流すだろう」
ラザフォードはお手上げだと言わんばかりに、両手を上に掲げた。
確かにそうだと、レイフォードは頷いたが、カイルはどこか投げやりなラザフォードにとうとう嫌気がさし「そうやって、すぐ決めつけるのとこがダメなんだ!」と指を突きつけて言った。
こんな暴言を吐いているところを侍従長にでも見つかったら、即クビ。
反逆者だと後ろ指を刺されて暮らさざるおえなくなるのだが、ここまで来たらどうとでもなれ!という気持ちでラズはここ最近溜め込んでいたものを吐き出した。
一人の友人として−−−−−−
「そろそろ、いい人ぶるのはやめろよ。綺麗事じゃ何にも解決しないし、伝わらない。第一、お前は悪くないだろう? なんでそう、自分が悪いと決め付けているんだ? 『あの人』が殺されたのは、別にラズのせいじゃない。殺した奴が悪いんだ!」
「そんな簡単にいくわけないだろう!? 俺は直接手を加えてないが、俺を守って死んだんだ。それを自分のせいじゃないと、言えるか? お前には俺の気持ちなんか1ミリもわかりはしないさ」
「ああ、わからない。過去のことをウジウジしている奴なんかにこの国の国民の命を預けられないね。全てを背負う気がないなら、王座につくべきじゃない!」
「カイル……言い過ぎだ……」
黙って二人の口論を聞いていたレイフォードが、やっと止めに入る。
その言葉で、部屋がしんと静まり返った。
カチカチと規則正しく時間を刻んでいる掛け時計は、ちょうど12時を指している。
議会まであと三時間あまりなのに、どんどん険悪なムード。
あと三時間でこの最悪な雰囲気を改善できるのかは、レイフォードにはわからなかったが、どうしたらいいのか思いつかない。
先に行動に出たのはラザフォードだった。
くるりと踵を返し、勢いよく扉をあけ、部屋から出て行った。
その後ろ姿をレイフォードが急いで追いかける。
カイルはただ呆然とその場に立ち尽くすしかなかった。
「はぁ……言ってしまった……荷造りしたほうがいいかな……」
頭を書きながら、作業の続きに戻った。
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「あの、すみません、ちょっとお尋ねしたいことがあるんですけど……」
主人たちが大変なことになっているなんて、全く知らないユリアスは、朝一で王宮にたどり着くなり馬屋に馬を預けると、急いで薬室へ。
本当なら、帰還したことを真っ先にラザフォードへ報告すべきなのだが、途中にある薬室へ調べ物を済ませたほうが効率がいいし、報告もまとめてできると考えた末、先に薬剤師の元へやって来た。
「どうされましたか?」
「あの、幻覚を見せる薬草の種類を特定したいのです。そういう類の薬草を教えていただけませんか?」
「幻覚を見せる薬草ですか? いくつかありますが、それはどういう時に幻覚が現れますか? 例えば、食べた時とか、触った時とか……」
「燃やした時にでる煙で。これなんですけど……」
ユリアスは例の薬玉を薬剤師の女性に見せた。
薬剤師は手に取り、クンクンと匂いを嗅ぎ、感触などを確かめていく。
「そうですね……私が知っている限り、こんな甘い匂いのする薬草は初めてです。とてもいい香りですね。本当にこれを燃やすと幻覚が?」
「はい。何人もそれで操られたんです。催眠術も一緒にかけられてしまって……」
「幻覚を見せている間に、深層心理に語りかけるということかしら? そんなことが可能な薬草があるなら私が知りたいわ」
「薬室長! 今日はお休みなんじゃ……」
背後から急に現れた白衣を華麗に着こなし、赤毛高く一つにまとめた長身の女性は「色々やることが終わらなくってね……」と、薬剤師に声をかけた。
「あら〜? 魔導家のユリアス坊ちゃんじゃない! 噂は本当だったのね〜殿下の側仕えをしてるって」
「ええ、まぁ。一応。お久しぶりです、アリソンさん」
「ほんと久しぶりね、ユリアス坊ちゃん。目立つところは嫌いのあなたがこんなところでねぇ。はは〜ん、これは、その殿下からの宿題かしら?」
「そんなところです。薬室長さま、えっと……坊ちゃんはちょっとやめてもらえます。」
「私にとってはずっとあなたは可愛い坊ちゃんなんだけど。じゃあ、ユリアスくん?」
「はい、それでお願いします。薬室長、忙しい所すみませんが、お助けください。この薬草を特定したいんです」
両手を合わせ懇願するユリアスに「可愛いユリアスくんの頼みですからねぇ」と言いながら、ある本を隣の部屋から持って来て、ユリアスの前に広げて見せた。




