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それぞれの役割③

 次の日、ラザフォードは珍しく、準備された正装に着替え、身支度を済ませると、ある場所へと向かった。

 カイルが同伴すると言ってきたが、彼には溜まった書簡のチェックをしてもらいたかったので、レイフォードを連れていくと伝えると、「絶対、昼までにはここに戻ってくるように!」と鬼のような顔で言われた。


「レイフォード、絶対ラズを逃すなよ!? この会議をすっぽかしたら、どうなるかわかっているだろうな!?」

「カイル、さすがに私もそこまで『うつけ』じゃないさ〜。ね? レイ?」

「俺に言われてもね……」

「カイル、その資料、もしユリアスが帰ってきたら見せてあげて」

「ユリアス帰ってくるのか?」

「その予定だが、いつ戻ってくるかはわからない。じゃ、よろしく!」


 カイルは顔を上げ、「やっぱり心配だから、自分がいく!」と作業中の書類を放り出し叫んだが、時すでに遅し。

 そそくさとラザフォードとレイフィードは立ち去った後だった。



 いよいよ冬がやってくる−−−そんな朝だった。

 北風は近くの落ち葉を巻き上げながら、容赦無く吹き付けてくるので、部屋の外に出て、吹きさらしの廊下をしばらく歩くと体がどんどん冷えていく。

 でも今日は太陽が出ているだけまだましだ。

 秋から冬に変わるこの時期に太陽が出ていることは珍しく、とても貴重だった。

 この機を逃すまいと、庭師やら、掃除や洗濯担当の侍女たちは大忙しだ。


 柔らかな日差しが大理石の廊下を照らし、少しだけ北風の勢力を弱めてくれる。

 それはこれからやってくる厳しい冬に向けての少しばかりの神様のギフトなのかもしれない。



 ラザフォードはそんなことをぼんやりと考えながら、レイフォードを引き連れ颯爽と歩く。

 そんな第一皇子を、道ゆく人が立ち止まり見つめた。

 それは、まるで珍しいものを見るような目で、影に隠れ、「一体何があるんだ?」とヒソヒソと話す侍従や侍女があとをたたない。

 それに気づいている当の本人は、「私だってちゃんとするときはするさ」なんて呑気なこと言いながら、気にせず回廊を闊歩かっぽしていった。



「一体どうなさいましたか!? 殿下?」


 カデトラルの入り口で、教会付き騎士が慌てながらラザフォードに尋ねる。

 彼の顔には「カデトラルなんてここ半年ぐらいきたことがない皇子が一体なぜ?!」と書いてあった。

 ラザフォードは明らかに動揺している騎士に、まるで子犬をなだめるような声で「通してもらえないか?」と言った。


「も、も、申し訳ありませんが、本日はだ、誰もお通しすることはできないのです……殿下であっても……」

「神事が行われている訳じゃないだろう?」

「それは……その……」

「いいから、どきなさい」

「申し訳ございませんが、それは殿下であっても出来かねます」


 騎士はだんだん威圧的になっていくラザフォードにも簡単に喰い下がらない。

 黙って控えていた、もう一人の騎士もラザフォードたちの前に立ちはだかった。


「私はサキヨミの巫女に用があるのだ。どきなさい」

「それならなおさら、ここをお通しすることは出来ません」

「殿下の命令だぞ!? 身をわきまえろ」


 ずっと黙っていたレイフォードが騎士二人に対して鋭く睨み、声を荒げた。

 廊下にレイフォードの声が響き渡る。


「一体何事だ? 騒々しいぞ」

「シュナイゼル殿下……」


 グレーの瞳に高い鼻筋、ラザフフォードの髪の色とは少し違うイエローの強い金色の長い髪を後ろで一つに束ね、口元に笑みを浮かべているこの男こそ、アストラス帝国第二皇子−−−シュナイゼル・ネオ・アストラスだ。


 まさか、この二人がこんな場所で揃うとは、誰も予想だにしていなかった。

 これは偶然なのかそれとも、神のお導きによるものなのか−−−−−−?


 騎士は互いに向かい合っている二人の皇子に目配せしながら、黙ってじっと門番用の長い棒を構えている。

 レイフォードは、「あらら……タイミング悪いな……」なんて、気づかれないようにため息を付いていいた。


 張り詰めた空気の中で口を先に開いたのは、弟のほうだった。


「これはこれは、一体どうしたんです? 兄上がこんなところに赴くなんて」

「いいだろう? 私だって時々、神に聞きたいことがあるのだ」

「行事すら参加してこなかったあなたが、今更神に何を聞くというのです? 実に面白い冗談だ。それより、こんなところで油を売っていてよろしいのですか?」

「それはどういう意味だ?」

「じきにわかりますよ。門番、通しなさい」

「どうぞ、シュナイゼル殿下」


 ラザフォードの視線を気にしつつも、騎士たちは互いに交差させていた棒を持ち直し、シュナイゼルをすんなり通した。

 さすがのこれには、「お前たち、なぜ、ラザフォード殿下は通せず、シュナイゼル殿下は通すのだ!?」とレイフォードが噛み付く。


「申し訳ございません、上からの命令なのです。シュナイゼル殿下をお呼びたてしたのはその……サキヨミの巫女さまなのです。そのほかの者は何者であっても通すなと……」

「な、なんだそれは! 我が主人を侮辱しているのか!?」


 いつも冷静なレイフォードはいきなり、騎士の一人に掴みかかった。

 それをラザフォードは「やめなさい!」と制す。

 騎士の襟元を掴んだ手を勢いよく離したので、騎士はその場に倒れこみ尻餅を付いた。


「一足遅かったということだな……行くぞレイ!」


 そう言い残し、ラザフォードは踵を返した。

 





 



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