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それぞれの役割①

「我々に薬草をもたらしたのは、カミンズ・ボルトという男だよ。そなたの読みは当たっている」

「じゃあ、やはり関所の役人が関与しているのですね」

「ああ、関所の役人は我々の存在を知っていながら隠してくれていた。今までも凶作の時は作物を他の村から送ってくれたりしていた。もちろん、その分衣類や工芸品などと交換で。でも、我々とつながっていた役人は他の役所へ行ってしまってね。代わりに来たのがカミンズ・ボルトだった。我々のことは異動した役人から聞いていたようで、すぐ我々のところへ来て言ったよ。『私に従えば、悪いようにはしない』とね。ちょうどその時は穀物も底をつき始めてきたから、長老は彼の話に乗ってしまった。」

「そうだったんですね。では、長老その一派が実行したと?」

「ああ、そうだよ。盗むなんてとんでもない……そう諭したのだけど、生きるためには仕方がないと突っぱねた。本当にすまないことをした」

「幻覚を見せる薬草を使って、霧を起こし、農作物を運ぶ荷台を襲ったのですよね? その薬草は一体……」

「詳しい名前はわからない。こんな薬草、この辺では見たことも聞いたこともないからね。私たち女には触らせないように、どこかへ隠しているようだ」


 老婆は、ロゼアに何か指示をだすと、ロゼアは棚の引き出しから、小さい小袋を取り出し、ユリアスの前に置いた。

 「開けて見て」と、ロゼアに言われたユリアスは紺色の紐をほどき、袋の口を開ける。


「これが薬草?」

「その一部。本当はちゃんとしたものを持ってこれたらよかったんですが、持ち出したら大変なことになるので……」


 中から取り出すと、カラカラに乾燥した薬玉の破片が入っていた。

 色と手触りからして、濃い緑色の幅の狭い葉っぱで作られているよう。

 見た限り、公にされている危険な種類の葉ではなさそうなのだが、このせいで幻覚症状を引き起こすらしい。


「これをどうやって使っているのか、わかりますか?」

「細かく潰して、煙が立つように、木の屑などと一緒に練って玉にしてるって言ってたわ。それに火をつけると甘い香りがするって」

「小麦を取られた農民たちは何も覚えていなかったんです。幻覚だけじゃなくて、記憶操作もできるのでしょうか?」


 ユリアスは薬草の玉を再び袋に戻しながら、老婆に向かって聞いてみた。

 自分は確かに幻覚は見たけど、その時の記憶はうっすらある。

 会えない人にあったという感覚が今でも残っている。

 でも、被害にあった人はそれすらも残っていなかった。

 一体どういうことなのか、ずっと気になっていたのだが、答えがでない。



「暗示じゃよ。小麦をとる相手が薬草の幻覚を見ている時に、暗示をかける。我々の一族には古くから伝わるまじないのようなものがあるから」

「暗示?」

「我々は怪我や病気をした人を治療する時に催眠状態にさせ、痛みを和らげるための『暗示』をかける。

痛みという意識を一時的に忘れさせるように、意識に干渉することができる。それを我々は『まじない』と呼ぶ」

「じゃあ、僕が幻想を見たときは霧だけだったから、暗示はかけられてなかったんですね」


 なるほど、と言いながらポンと手のひらを拳で叩いた。

 これで謎だった部分はほとんど解消できた。

 あとは、薬草がどこから流れてきたかだが、それはカミンズを直接問い詰めればいい。

 取り急ぎ、宮中へ向かって報告した方がよさそうだ。


「これで、願いに対する『対価』を支払ったことになるかね? 魔法使い殿」

「ええ。十分です。この集落がなくならないよう手を尽くします。市場の人もあなた方がいなくなっては困りますしね」

「それは……」

「昔、協定が結ばれたそうですね。互いに干渉し合わないようにする。あの不思議な一本道はそのために隠された道だ。よそ者が通ってもこの場所を知られないように守るよう作られた。その代わりに、この森で遭難事故が起きないよう監視しているんですよね」

「ふふふ……さすがだね。その通りだよ、魔法使い殿」

「だから、市場の人たちは、あなたたちの存在を頭に浮かべても犯人として役人に突き出したくないのでしょうね。取られた農民はかわいそうですが……」

「必ず、とった分の小麦を返すことを約束する。必ず……」

「その言葉、確かに聞きましたよ」


 ユリアスはそう言い、立ち上がった。

 十分すぎる対価をもらったので、ここに長居する必要はない。

 でも、乗ってきた白馬がいないことには、王宮へたどり着けないため、まずは白馬を探さなければ。


「魔法使い殿、気をつけるのだよ。そなたはこれから、大きな試練が課される。どちらの道もそなたにとっては苦痛の選択だろう……」


 ユリアスは出ようとする足を止め、振り返る。


 窓辺にかかった小さい鐘がリン−−−と鳴った。


 老婆も立ち上がり、ゆっくりと杖を付きながらユリアスの側へとやってくる。

 そして、ゆっくりユリアスの手をとり、両手で包み込んだ。


「そなたには、世界を正しく見る目がある。大丈夫、自分を信じて進みなさい。何も怖がることはない。そなたを受け入れてくれる人が近くにいるのだから」

「それは……どういう……」

「自分では何のことか、ちゃんとわかっているのだろう。魔法使い殿に会えてよかった。これを持って行きなさい。そなたをきっと導くから」


 手に乗せられたのは、青い綺麗な石だった。

 ひんやりと冷たいその石の中にはうっすら白い模様が入っていて、金の留め具がついている。

 その留め具には皮でできた紐が通してあり、首から下げられるようになっている。


「大切な人からそなたへの贈り物だ。来たら渡してくれと頼まれていたんだ」

「それは一体誰ですか? 僕がここへ来ることをあなたは知っていたのですか?」

「ふふふ……私ではないよ。その石の持ち主はとても君に会いたがっていたよ」

 

 その人物は一体誰なのかとても気になっているのに、目の前の老婆は話すつもりはないらしい。

 話せないなら言わないでくれと、心の中で呟く。


「あなたの馬を裏へ連れてくるように、他の者に頼みました。男たちに見つからないよう、裏から出ていってください。案内します」

 

 マニラは扉を開けた。

 ユリアスは出て行く間際にもう一度だけ、老婆に向き直した。


「ありがとうございます。対価分は必ず願いを叶えてみせますから」

「ああ、期待しているよ。そして、その石はお守りだから肌身離さず持っていること。いいね?」

「……わかりました」


 パタンと扉が閉まり、再び静寂が訪れた。

 静寂を打ち消すように、ロゼアが口を開く。


「ババ様、本当に彼が予言の『魔法使い』なのですか?」


 空になったカップを片付けながら、老婆に尋ねた。

 老婆は定位置の窓際の椅子に戻りながら、ふふと笑った。


「ああ、そうだよ。私ができることはここまでだから、あとはあの子次第だ。再生か破滅か……」







 







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