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薬草と陰謀⑦

「お前さんを信じられる要素がどこにもない。第一そのカミンズという人物も我々は知らぬ。この集落について言いたければ、皇子に言うがいい」


 長老は冷ややかな目でユリアスを見つめながら、「お前たち、やりなさい」と淡々と言った。

 その言葉と同時に、男が檻の扉を開け、ユリアスの喉に鋭い槍を突きつけながら、「立て」と命じ、首を羽交い締めにしながら外に連れ出す。

 そして間髪入れずに、みぞおちに数発蹴りを入れ、ユリアスの意識を朦朧もうろうとさせると、そのままズルズル引きずりながら、集落の奥深くへ連れて行った。


 ザアザアと水が流れる音がするその場所は、木の柵があり、人がむやみに入れないようになっている。

 その柵を外し、ユリアスを柵の奥へ連れていく。

 そこはユリアスの予想通り、崖だった。

 この間落ちた崖に似ているが、この場所のほうが随分高い。

 川が流れているが、ここから落ちたらさすがに、水面は硬い石と同じ強度になるので、即死だろう。


 どうやらそれが彼らの答えらしい。

 うまくいくとは思っていなかったが、もう少しこの長老は賢い選択をすると思っていた。

 蹴りを入れられたみぞおちがズキズキ痛む。

 肋骨は折れていないことを願いながら、ユリアスは次の一手を考えた。


 彼らをこれ以上揺すったり、カマをかけても意味がない。

 どうしたら、自分の欲しい情報を手に入れることができるだろう……



 ピロロロ……ピロロロ……

 頭上を大きな鳥が優雅に鳴きながら、旋回していく。

 頭巾をかぶった男たちは、倒れこんでいるユリアスを無理やり起こすと、崖のふちに立たせた。

 どこからか白い霧が流れ込み、昼間なのに不気味な雰囲気に包まれていく。

 ユリアスはとっさに、その霧を吸い込まないようにするが、手足が拘束されているので、鼻を覆うことができない。

 

 このまま、大人しく拘束され続けたら、本当に身の危険が−−−−−−


「一日に何度も使いたくないんだけどな……」


 ポツリと自分に言い聞かせながら、呪文を唱えた。


『風よ、我が願い聞き届けよ』


 頭上を優雅に旋回していた鳥が異変を察知したのか、その場から勢いよく飛び去った。

 そして次の瞬間、先ほどと同じようにどこからともなく、突風が吹き荒れ、霧はもちろん、頭巾の男たちも一緒になぎ倒していく。

 その隙にユリアスは、自分の腕と足縛る縄を風で切って、地面に落ちている槍を掴み勢いよく走り出した。

 柵を外さず、足をかけて登り、馬を探すため再び集落の中へ突き進む。


「逃げたぞ!!」

「早く捕まえろ!!」


 頭巾の男たちの叫び声とともに、集落からまた別の男たちがユリアスの前に立ちふさがった。

 彼らの手には槍だけでなく、長剣が握られている。

 さすがに手に持っている一本の槍ではどうすることもできないのだが、ユリアスは相変わらず焦るどころか余裕の笑みを浮かべている。

 

「袋の鼠になっても、ヘラヘラ笑っているとは、いい度胸だな、お前。意外と肝が座ってる」

「それはどうも。そういうあなたたちも、本当に僕に手を出して後悔しませんか? 僕は魔導家出身なんですよ? さっきの風は挨拶程度です。今度は稲妻でもここに落としましょうか?」

「そんなことができる訳がないだろう!! さっきの風も偶然だ!」

「そうだ! あんな突風よくある!」

「そうですか。じゃあ、今度は何がいいですか? 火ですか、雷ですか? それとも−−−」

「雨を!! 雨を降らしてください!!」


 頭巾の男の間を割って入ってきたのは、若い女の人だった。

 その顔は必死で、ぎゅっと両手を握りしめている。

 

「おい、マニラ、下がりなさい!」

「この人は魔法使いなのでしょう? ババ様がその人は私たちを救う人だって言ってた。だから、殺してはダメよ。お願いします。どうか、私たちを助けてください、魔法使いさま」

「マニラ、いい加減にするんだ! ここは女が出る場ではない! お前たち、マニラを連れ出せ!」

「お前らって、何よ! 男だからって偉そうに! ババ様のいうことが聞けないの!?」

「ババ様に逆らうなんて、あんたらわかってるの!?えぇ?!」

「お前ら、誰に向かって偉そうにしているんだ!」

「何よ、男なんてなーんにもできやしないじゃない。誰があんたらのご飯を作ってると思ってるんよ!」

「お前ら、こんな場で喧嘩するなよ」

「はぁ? お前って何なのさ、いつも上から目線で男らは言いやがって!」


 頭巾の男と槍と剣を持った男らを、女がすごみをきかせ囲み、日頃の鬱憤を晴らすかのように男に罵声を浴びせた。

 その中心にいるユリアスは、何が何だかよくわからず、ただ呆然と立ち尽くすしかない。

 と、いきなり「こっちよ」と腕を引かれ、輪の中から連れ出された。


「あの……」

「いいから、付いてきてください。会わせたい人がいるのです」


 ユリアスはとりあえず黙って、マニラと呼ばれていた女性に付いていくことにする。

 喧嘩の真っ只中にいる頭巾の男たちは、ユリアスがいなくなったことなんて誰も気づいていないようで、追ってくる者は一人もいない。

 案内された場所は、さっきの崖があったところとは違う、森の奥深くの場所で、大木たいぼくがそびえ立っている。


 樹齢100年以上を思わす立派な大木たち。

 5メートル以上もある幹の大木の上には小屋が建てられていて、15メートル以上も上にある小屋から長い階段が下ろされている。

 一応、階段は中間に踊り場のような足場が設けられていて、二段階構造だが、木と草のつるで作られている簡易的な階段だった。

 これはちょっと安心安全な階段とは言い難いので、登れと言われないことを願ってみるが−−−


「登ってください」


と、黒い大きな瞳がユリアスをじっと見つめる。


「ですよね……やっぱり……登るんですよね」

 

 マニラに言われるままに、ユリアスはその階段に手をかけ、登り始めた。

 ギシギシと揺れる梯子に、かなりの不安を覚えつつ、一気に登りきると、森の中にぽっかり穴が開いたような集落の全貌が見渡せた。

 ユリアスが想像していたより、ここはかなり大きい集落のようだ。

 今まで本当に誰も気づいていなかったのが不思議なくらい。


「大きいでしょう?」

「ええ。こんなに大きいとは思いませんでした」

「我が民族は年々減ってきてしまっているけど、土地だけはあるのです」

「会わせたい人って言うのは……?」

「こちらへ、どうぞ」


 振り返ると、閉ざされた小屋の扉が急に内側から開けられた。

 小屋からは不思議な匂いが流れてくる。

 例の霧の薬草とは違う匂いで、どこか懐かしく、遠い昔を思い出すようなノスタルジックな匂いだ。


「待っていたよ。魔法使いさま……」


 目の前には目を閉じたまま鎮座している老婆がいた。



 


  


 

 

 




 

 

 

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