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薬草と陰謀⑥

「そなたは我々に何を望んでおるのか? タダでこの場所を、我々の存在を黙っている善人ではないだろう?」

「そうですね。僕は、真実を知りたいだけです。この森に流れる薬草の霧について、小麦だけを盗んだ理由……そして、黒幕が誰なのかを」

「それを知ってどうするのか? 教えたらお前さんは、真っ先に役所に行くだろうが! 我々をバカにしているのか!?」


 いきなり長老の隣の青年が格子の隙間から手を伸ばし、ユリアスの胸ぐらを掴み上げた。

 引き寄せたユリアスにガンを飛ばしながら、「バカにするのも大概にしろよ!」と低い声で唸り、ユリアスを勢いよく地面に叩きつけた。

 みの虫のように地面に転がったユリアスは、ゴホゴホと咳き込みながら、「別にバカにしてるわけなないんだけどな……」と一人呟く。

 こんな状況でもユリアスはあまり危機感を持っていない。

 むしろ、相手を揺さぶり挑発する余裕さえ見て取れる。

 

 一体、この状況でどうするつもりなのか−−−?

 この少年が考えていることを理解できる者は、誰もいないだろう。

 ユリアスは手足を拘束されているので、自由がきかなかったが、なんとか上半身を起こすことに成功すると、長老に向かって言った。


「どこも凶作で農作物の収穫が激減しています。生き延びる為に『小麦』だけを盗んでいるのは、ある意味致し方ないかと僕は思います。全部取ってしまえばいいのに、農民たちが困らないように一部だけ。薬草で幻覚を見せている間に荷台から小麦を取り、それが終わったら彼らに危害を加えることなく、元の道に戻した。実に平和なやり方です」

「証拠はあるのか? 我々が小麦を盗んだという証拠が」

「ありますよ。ほら、そこに」

「?!」


 ユリアスはすっと茶色の服を身にまとっている男たちの腰を指した。

 彼らの腰には巾着袋が複数釣り下がっている。 

 格子を叩きつけながら「袋がなんなんだ?」と取り巻きの男が言い放ったが全然、ひるむことなく「証拠はそれですよ」と笑った。

 明らかに面白そうにわざと相手をイライラさせている。

 これも作戦の一つなのだが、ユリアスの目論見に気づいていない男は「ああ!? お前、ナメてんのか!?」と格子を蹴った。


「その巾着には薬草玉が入っていますね。さっきから甘い香りがあなた方の腰からするんですよ。僕って匂いに敏感で、そう言う類の薬草に関する知識には強いんです。その巾着に染み付いた匂いは簡単には取れません」

「匂いがあるからと言って、小麦を盗んだという証拠にはならないだろう?」

「そうですね。でも、関連性を調べあげれば、それも可能です」

「関連性?」

「ええ。小麦以外の物は被害には遭っていない。でも、どうして小麦が乗った荷台だとわかったか、ずっと気になっていたんです。直接盗んだのはあなた方だが、裏で手を引いている人物−−−すなわち、黒幕がいると僕は、考えています。幻覚作用がある繊細な薬草はこの森の環境では育たないから、他から供給したと言うことになります。薬草はとても高価で、特定の職業の人じゃなきゃ買えません。そこそこ身分の高い人がバックについていますよね?」

「………………」


 長老は押し黙ったまま、挑発的なユリアスを見つめた。

 さすがに年長者なだけある。

 年のこうのおかげて、ユリアスの挑発にも冷静で、投げかけてた質問にすぐさま答えてはくれない。


(ちぇっ……すぐ答えてくれたら、それが「証拠」になるのにな……一筋縄ではいかないかぁ……)


 ユリアスはあちらの出方を予測しながら、慎重に別の質問を加えていく。


「じゃあ質問を変えますね。関所の役人のカミンズ・ボルトがその薬草を横流しにしましたね? 彼は商導家出身だから、薬草を手に入れるのも簡単だ」

「そんな奴、知らぬ」

「本当に? じゃあ、彼に聞いてみようかな……カミンズ・ボルトは確か商導家の当主と遠い親戚なんですよねぇ。だから、色々不正が見つかったらきっと一族から大変な仕打ちを受けます。僕が彼だったら、自分の不正が暴かれる前に、他の人に罪を着せるけど……どうでしょうね」

 

 不敵な笑みを見せながら、ユリアスは淡々と追い詰めていった。

 カミンズ・ボルトという名前は、ユリアスが王宮に上がったばかりの頃に頼まれたあの帳簿の取りまとめをしている時に、いやってほど見た名前だった。


 その時、偶然の産物かどうかは書類上では見極められなかったから、念のため、執務室に置いてあった戸籍に関する帳簿の中から彼の名前を探し出し、どういう人物かも書き加えて報告書を提出したのだった。

 

 勤務シフトで彼の名前を見かける日は、不思議なことに小麦泥棒騒ぎの当日。

 そして、彼と組む役人も固定された一部の役人だ。

 業務内容的に同じ者で組む方が効率がいいと言われればそうなのだが、ちょうど1ヶ月前に大きな人事異動があったのに、彼の当番の日だけは同じメンツだった。


 自分で夜な夜な調べながら報告書を書いたから、簡単に忘れるはずがない。

 

 うつけの皇子からやらされていた雑用が今ここで役に立つとは−−−−−−もしかしたら、皇子はこうなることを知っていて、帳簿の整理をさせたのだろうか?


 それが本当なら、あの皇子は相当な策略家だ。


 そんなことを思い返しながら、ユリアスはジリジリと彼らに迫った。


「この集落を存続させる方法は、一つです。あなたたちの知っている情報を私にくれさえすれば、この集落に危害を加えないように手を尽くします。奪った小麦も、収穫時期に返納してもらえばお咎めなしということで話をつけます。どうですか?」


 遠くから子どもが泣いている声が風に乗って聞こえてきた。

 母親があやす声も、かすかに聞こえてくる。

 転んで怪我をしたのか、はたまたお腹が空いたのか−−−どうして、泣いているのかはここからじゃわからないが、とても辛そうな泣き声だ。


 誰も何も発しないこの場で、その声だけが響き渡るので、この集落が抱えている問題を浮き彫りにしているようだった。

 この集落は今、存続の危機にある。

 昨今の凶作で、作物が思うように育たず、家畜も激減しているようだ。


 その証拠に、ユリアスは本来家畜を入れておく場所に収容されているし、ここから確認できる小屋は全て開け放たれていて、穀物が保管されているようには見えない。

 小麦を盗んだのは、この集落の人々が生きる上で仕方がなかったのだろう。

 それがなければ、きっと彼らは「小麦泥棒」になったりしなかったはずだ。


 黒幕を効率よく見つけ出すことと、この集落を存続させること、二つを達成させるにはきっとこの方法しかないだろう。

 小麦泥棒でさっきから自分にひどい仕打ちをしてくる人たちなのに、なぜか「悪だ」と決めつけるなと、もう一人の自分が言っている。

 そして、この風景をずっと前から知っているような気がする。


 ユリアスは彼らの返答を待ちながら、この奇妙な違和感についてぼんやり考えていた。

 





 

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