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皇子からの挑戦②

 「そうだよ。そなたの前に7人側仕えがいたと聞いたが……どいつも長くはもたなかったよ。武道家から3人、神導家から2人、商導家から2人殿下の元へあがったが、どいつもこいつも忍耐力がなかったのか、はたまた別の問題なのか……」

 

 イザベラは、歯切れの悪い言い方をしながら、ユリアスの耳元でささやいた。

 ここは宮中の中にある教会で、今現在も誰に何を聞かれているかわからないのだから、具体的内容にかけるのは仕方なかったが、だいたいは予想通りだ。


「色々、教えていただきありがとうございました。あの、二つほど伺いたいことがあるのですが……」

「なんだ?」

「殿下付きの薬剤師はどちらにいるのでしょう。あと、殿下と親しい庭師が誰かご存じですか?」


 ユリアスは、この機を逃すまい、とイザベラに質問を唐突にぶつけた。

 イザベラは、状況を察してくれたようで、薬剤師がいる医局までの道を書いてくれた。

 

「ここに行けば、殿下付きの薬剤師に取り次いでもらえる。あと、なんだ……その殿下と親しい庭師は、残念ながら私は知らない。力になれずすまないな」

「とんでもない、十分です。本当に助かりました」


 ユリアスは深々と頭を下げ、感謝の言葉を述べた。

 そして、門番の検閲所に一時的に台車にのせたまま本を預け、イザベラに別れをつげた。


 時刻は殿下に命じられてから2時間ほど経過している。

 ポケットから懐中時計を取り出し、頭の中で行動シュミレーションをしながら、廊下を速足で進む。

 

「はぁ……どうしたもんかな……」


 ユリアスは、ため息をつきながら、自分の身の上を案じた。

 しかし、未来のことを案じたところで、現状が変わるわけでもない。

 今やれることをやらなければ、間違いなく自分は他の側仕えと同じようにクビになる。

 落ちそうな気持ちを自分ですくい上げ、足を進めた。



 教会内部は、ユリアスが想像していたよりも、広く、重苦しい建物だった。

 廊下はもちろん大理石なのだが、さっきまでの廊下とちがって色が黒と白の幾何学模様で、光が沢山入るように設計された大窓には、きらびやかな彫刻の飾りが施されている。

 天井は高く、美しい天使が舞う絵画が描かれているのに、どこか冷ややかな空気漂う、そんな建物だ。


 行き交う人の数は、門をくぐったときは多かったのに、奥まで来ると、その人数が半減した。

 廊下もとても入り組んだ造りで、とても一回で道を覚えることは不可能に近い。

 さっきイザベラに書いてもらった地図は、大変役に立った。

 

 でも、なぜイザベラは初対面の自分にこんなによくしてくれたのか……?

 

 ユリアスの頭にふと浮かんだが、今はそれを考えている場合ではない。

 一刻も早く、薬剤師の元へ行き荷物を受け取らないと、時間がなくなる。



 歩くこと20分、西の塔より北に位置する医局がある館へたどり着く。

 中に入るや否や、カウンターに座っている医局付き侍女に、身分証を見せ、「ラザフォード殿下の使いで来ました、ユリアスと申します。殿下仕えの薬剤師に取り次いでいただけないでしょうか」とお願いすると、「少々お待ちください」と頭を下げ、その侍女は奥の廊下へと消えていった。


 さすがに少し疲れたユリアスは、置いてある椅子を見つけ、腰かけて待つ。

 知らない人しかいなく、土地勘もないこの王宮で、自分は本当にやっていけるのか?

 もやもやした不安がユリアスを襲い始めた。

 左右に頭を振り、不安を振り払おうとしたちょうどその時、さっきの侍女と白い白衣を着た女性がやってきた。


「お待たせいたしました。こちらが、殿下付きの薬剤師、ソフィア殿です」

「はじめまして、ユリアス様。殿下にこちらをお渡しください。中に内容を書いた紙が入っております」

「ありがとうございます」


 ユリアスは一礼し、その場を後にした。

 

 来た道を黙々と戻り、元の教会の検閲所へ。

 届いているはずの関所の調査票を受け取るために、検閲所の奥のカウンターへ行き、殿下宛ての書簡を全て受け取る。

 思ったより多かったので、ポケットから、折りたたまれた袋を取り出し、書簡をつめ、肩から掛ける。

 その姿は、側仕えというより、郵便配達員。

 身分証がなければ、つまみ出されてもおかしくなかった。

 しかし、周りからの冷たい視線を気にすることなくユリアスは、預けておいた台車をガラガラと再び音を立てて、押し始めた。




 

 

 

 


 

 


 



 

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