薬草と陰謀②
「でも確かに、隣の兵士も見たんですよ。見間違えじゃないと思うんです」
「じゃあ、二人揃って幻覚でも見たんだろう? お前さんもその幻覚で隊からはぐれただろうが。もう一本道なんて存在しない」
「でも……」
「それじゃあなにか、ユリアスは俺らの仕事がずさんだと言いたいのか?ええ?!」
グッといきなり胸ぐらを掴み、ユリアスを上から睨みつける。
その隣で、ラジが「お前、お頭に失礼だ! 早く謝れよ!!ほら!」と吠えている。
ギリギリと首が閉まり、呼吸困難に陥る。
これじゃあ、謝りたくとも謝れないじゃないか−−−−−−
ユリアスの顔が青ざめ始める前にお頭はユリアスを地面へと叩きつけた。
ゴホゴホと咳き込みながら、涙目でお頭を見上げると、「お前の帰還を祝うのは止めだ! もう代金はもらった、さっさとここから去れ!」と大声で怒鳴りつけられた。
どうやら、触れてはいけない一線に踏み込んだらしい。
でもこれでここからさっさと去ることができる−−−ある意味一石二鳥だ。
「お世話になりました」
二人に一礼をし、ユリアスその場を後にした。
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あの道は確かにあった。
でも気づいていたのは僕の隣にいた兵士のみ。他の人は何も言っていなかったのはなぜだ?
それに、あのお頭の反応……何か秘密があるはず……
ユリアスは馬を用意するため、市馬の馬屋へ向かった。
資金は主人から十分にもらっているので、馬も選びたい放題だ。
どの馬でもいいのだが、なるべく従順なよく走る馬がいい。
「お前……」
馬の質ごとに馬屋が違っていて、それぞれの馬屋にランクを表す色札が掲げられている。
この間暴れた白馬が、一番下のランクの馬屋の中で繋がれているのを発見した。
ユリアスは白馬に近づき手を差し出した。
白馬はユリアスの手に鼻を近づけ、フムフムと臭いをかぎながら、耳をユリアスの方へ向ける。
「元気になったんだな。よかった……」
馬屋の前にあった干し草を一束手に取り、白馬にあげると、ムシャムシャとユリアスの手から干し草を食べ始めた。
暴れた馬とは思えないほど人懐っこい馬だ。
この馬から採取した黄色い粉が薬草ならば、この馬の性格を変えたのも薬草のせい。
もっと事が大ごとになる前に、この薬草の種類と、ばらまいている犯人を捕まえなければならない。
馬の額を優しく撫ぜながら、一人考えていると、「お前さんはこないだの……」と声をかけられた。
その人物は確か、この白馬の持ち主だが、この間あった時よりも随分やつれたいる気がする。
「この間はありがとう。おかげで馬も元気になった」
「でも、あなたはなんだか……その、元気じゃなさそうです……大丈夫ですか?」
「大丈夫と言いたいが、大丈夫じゃない。手塩に掛けて育てたこの子が、最低ランクに落ちてしまった。献上どころか買いても見つからない。元気になっても、一度暴れた馬だから、誰も怖くて買わないんだ」
「そうなんですか……」
馬の主人はとても悲しそうに、白馬を見つめている。
白馬もまた育ての親にやって来て、愛おしそうに見つめていた。
ユリアスのポケットには銀貨が6枚。
この市場で一番いい馬を買ってもお釣りがくる。
馬だけでなく、色々調査する上で食料やら剣やら揃えたいから、なるべく節約したい。
この馬とその主人を交互に見ながらユリアスは頭のそろばんを弾く。
(交渉する余地ありだな……この馬は薬草がなければAランクだし、人懐っこいから安心だ)
「あの、この白馬はよく走りますか?」
「ああ、もちろんだとも。村の競馬ではいつも一番だった」
「臆病だったりしますか?」
「臆病ではないよ。神経質でもない。むしろ、ちょっとおっとりしているかな」
「気分屋ではありませんか?」
「そんなことはない。本当は気性も荒くないんだよ! まぁ、今となっては私の話なんて信ぴょう性に欠けるがな」
「銀貨3枚でどうですか?」
「は?」
「僕がこの馬を買います。銀貨3枚じゃ足りませんか?」
面を食らった馬の主人がユリアスの顔をみて、聞き返した。
ユリアスは同じことをもう一度ゆっくり言いながら、ポケットの銀貨を取り出し見せた。
「僕がこの馬を買います。銀貨3枚じゃ足りませんか?」
「ぎ、ぎんか3枚?! そ、そんな高額で?!」
「もしこれでダメなら他の馬にします。どうですか? 僕にこの白馬を売ってもらえませんか?」
主人はいきなりユリアスの両手を握り、ブンブンと首を上下させ「喜んで!!」と叫んだ。
絶望的だったのにまさか馬が破格の値段で売れるなんて、神様は見捨てなかった〜!と大きな独り言を叫んでいる。
事情を知っている他の同業者もその言葉を聞きつけて、ユリアスに「本当にいいのか?! うちの馬の方がいいぞ!?」と営業をするが、ユリアスの意思は硬かった。
こないだまでここで働かされていた小僧がどうして銀貨を持っているのか?!と噂になり始める前に、ユリアスは白馬の主人に銀貨を渡し所有権書をもらった。
白馬はこの狭い小屋から抜け出せるのが嬉しいのか、ユリアスに近づき尻尾を高く振って大人しく鞍載せさせてくれた。
「この子を大事にしますね。じゃ」
そう言い残し、ユリアスは白馬を連れて、必要なものを買いに市場の奥へ歩いていった。




