峠の村⑤
「話を戻すが、シュナイゼルたちが『賢者』に辿り着く前に、この小麦泥棒を捕まえなければならない。時間がなくなってきた。ユリアス、お前に私の全てがかかっているから宜しく頼むぞ」
「賢者と小麦泥棒とどう関係があるんです? ってか、殿下も小麦泥棒より『賢者』を探すべきじゃないんですか?」
「そうかもしれないが、今は消えた小麦の行方の方が大事だろ? 何せ今年は大凶作でどこも厳しいのだから」
「確かにそうかもしれませんけど、そんなの役人に任せれば−−−とはいかないから、殿下が直々にお調べになっているんですね……でも、商導家と武導家が関与していたら大ごとになりますし」
「やっと色々わかってきたか。理解が早くて助かる。さあ、そろそろ出発しよう」
そして、三人はひたすら森の中をかけて行く。
ここまでくまなく探すが、行方不明の兵士の姿は見当たらない。
もしかしたら、捜索隊が先に見つけたのかもしれないが。
ユリアスが馬の速度を急に落としたので、前を走っていたラザフォードがそれに気づき、「どうした!?」と叫ぶ。
「ここ、きた時は確か、一本道じゃなくてもう一本道が見えたんです。二つの道の合流ポイント……この木、特徴的だから、この場所で間違い無いです」
「でも、どう見たって一本道だが?」
「そんなはずないですよ。僕こういう記憶力だけはいいんですから!」
そう言いながら、ユリアスは馬の速度を緩め、馬から降りた。
行きの時はいいが、帰りは右と左とどっちへ行けばいいか迷わないのか?とずっと不思議に思っていたのだ。
地図にも載っていない道があるなんて不思議だと……
でも、そんな場所、今ここに存在していない。
確かに、このあたりのはずなのに、道が忽然と消えてしまったのだ。
それはまるで呪文を唱えないと現れない、魔法の道のよう。
「どうみたって、ここは一本道だ。ユリアス、先を急ぐぞ」
レイフォードが叫ぶが、ユリアスは馬に戻らず、あたりをキョロキョロと見回している。
本当に自分の記憶違いなのか、あるいは本当に消えたのか、世にも奇妙なことが起きて、ユリアスの中に眠っていた好奇心を目覚めさせた。
「ユリアス、日が暮れるから、今日はとりあえず市場へ向かおう」
「はい……そうですね、すみません」
主人に諭され、ユリアスは好奇心をしまいこみ、馬へ飛び乗った。
そして、一行は再び市場へ向かって走り出す。
********
市場に着いた時には、日が半分沈んでいた。
日中活気のある市場内もこの時間になると、警備の兵士と馬の世話や献上品の仕分け管理をしている役人しかいない。
でも、反対に市場の周辺の飲食店が連なる繁華街はとても賑わう時間帯だ。
農作物を献上しにきた地方の農民や商人たちの中には稼いだお金で早速、豪遊しているものもおり、飲めや歌えやと、どんちゃん騒ぎをしていた。
「さあさあ、今日はいい肉が入ったよ〜寄っていって〜」
「坊ちゃんがた〜ウチの店で飲んで言ってよぉ〜」
「け、結構です!」
気を抜くと腕を捕まれ、店に引き込まれそう。
そんな中をくぐり抜け、レイフォードはユリアスとラザフォードを繁華街から少し離れた屋敷へ連れていった。
中へ入ると、使用人が出迎え、着ている上着と帽子を預かり、中へ案内してくれる。
ユリアスが最近忘れかけていた気品漂ういい雰囲気の屋敷だった。
玄関には骨董品の花瓶や置物、下には幾何学模様の鮮やかな絨毯がひかれ、天井を見上げると豪華なシャンデリアが吊り下がっている。
口を半開きしながら天井を見上げるユリアスに、「どうした? お前は珍しくもないだろう? こんな装飾」
と、ラザフォードが言うのを「ラズのせいで忘れかけてたんだろ……なあ、ユリアス」と、レイフォードが肩を叩く。
「すぐ迎えに行くつもりだったさ」と、若干ふてくされながら、ラザフォードはズカズカと奥へ進んで行った。
そんな彼の後ろ姿を見ながら、ユリアスはレイフォードにボソッと言った。
「気を遣っていただいているのはありがたいんですが、あんまり殿下をいじめないであげてください。後々面倒なので」
「お、よくわかってるじゃないか。あいつをちょこちょこ弄るのが面白くて、つい……な」
「レイフォードさんは殿下とどう言う関係なのですか?」
「くされ縁だよ。あいつの母親と俺の母親が従兄弟なんだ」
「そうだったんですか……どおりで仲がいいわけですね。もう一つ聞いても?」
「なんだい?」
真剣な瞳で見つめるユリアスに対して、レイフォードはにこりと笑った。
「レイフォードさんは『いつから』僕を監視していたのですか?」
「そうだな……ユリアスが市場で売られた直後ぐらいかなぁ」とレイフォードは口角を若干緩ませ言った。
どうしたんだ?と言うように。
ちょっと気になって〜と笑いながら、ユリアスは首を傾け、さあ僕らも行きましょ、と歩き出した。




