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峠の村③

 立ち話をしている場合ではないと言いながら、ラザフォードはユリアスに馬を与え、一緒に付いてくるよう言った。

 ユリアスは、また話をするつもりないんだな……と一瞬思い、喉まで出かかったが、何かが起きたことを察知し、ここは大人しく指示に従うことにする。

 レイフォードを先頭に、ラザフォード、ユリアスの順で森に向かって突き進んだ。


「ユリアス、お前と一緒に小麦泥棒捜索に当たっていた兵士3名が行方不明になった。お前と同じタイミングで。だから、これから市場に向かう」

「やっぱり……」

「やっぱりとは? 何かわかったんだな?」

「はい、行方不明の原因はおそらく、薬草です。だから、殿下達も気をつけてください。甘い香りがしたら、危険です。原因はこの森にあると思います」


 ユリアスが大声で、並走するラザフォードに向かって告げた。

 まだ、証拠がないから確信が持てないが、気をつけるのに越したことはない。

 念のため、自分が飲んでいた解毒剤はポケットに常備しているが。


「甘い香り……薬草……」


 皇子は何やら心当たりがあるように、一人呟いた。

 

 三人はひたすら走り続け、関所までやってきた。

 レイフォードは馬を降り、関所の役人に身分証を見せる。


「この二人は?」


 役人は身分証を確認しながら、マントのフードを頭から被り、口元を布で覆っているラザフォードと、ユリアスを舐めるように頭から爪先までチェックする。

 正体を隠すための変装だと思うが、さすがに怪しすぎる。

 ユリアスは、これでどうやってここを突破する気なのか、とレイフォードと主人に視線を送るが、二人はもちろん慌てる様子もなく、余裕の笑みをこぼしていた。


 すっと、ラザフォードが胸元から、カードのようなものを取り出し、近くにいるもう一人の兵士に渡すと、その兵士は「どうぞ、お通りくださいませ! 失礼いたしました! ラザフォード殿下の側近殿でしたか!」と、90度のお辞儀をしながら、叫んだ。


 こうして、三人は関所を後にし、再び市場へ向かって走り出す。


「ラザフォード殿下、自分で身分証を偽造したんですか?」

「自分というか、まあ作らせた。あったら便利だからな」


 ユリアスは、作らされた本人の顔を思い浮かべながら、どうしてここにいないのかと思った。

 

「あの、カイルさんはどうしたんですか?」

「カイルには別件を頼んでいるんだ。私は味方が少ないから、色々大変なんだよ」

「…………じゃあ、せっかく来た側仕えを首にしなければよかったんですよ」

「使えない者をそばに置くつもりはない」

「相変わらずラズは厳しいな。ユリアス、よく耐えてるよ。感心する」

「毎日大量の仕事を任されるんで、もう普通の仕事がよくわからなくなって来ました。ここに来たのだって、酒代に引き換え売られたに近いですし……」


 ため息をつきながら言うユリアスに、「かわいそうに」とレイフォードは声をかけたが、売った本人はなんでもない涼しい顔をしている。


 ちょっと憎たらしい。


 その声が聞こえたのか、レイフォードが気を利かせてくれ、「ラズ、もっと大事にしないと、逃げられるぞ? ユリアスがあっち側に行かれたらお前、窮地に陥るんだから」と言ってくれた。


「あっち側って、シュナイゼル殿下のことですか?」

「ああ。ユリアスは、シュナイゼル殿下にはもうお会いしたのか?」

「いいえ。殿下の側仕えには会いましたが」

「喧嘩の相手だろ?」


 意地悪そうにニヤリと笑うラザフォードは「ひどい顔だったよな……少しはやり返せばよかったのだ。うちの側仕えの方が優秀なのに」とさらりと言った。

 ユリアスは、「今、褒められた?!」とちょっと嬉しさがこみ上げたが、「平常心平常心!」と呪文のように心の中で唱え、皇子の言葉に反応しないよう務める。


「ユリアス、シュナイゼルに会ったら気をつけろ。あいつ自身は何もしてこないが、周辺がお前に何かしてくるかもしれない。賢者探しであっちはそれどころじゃ無いだろうが……」

「あの……その『賢者』を殿下は探さなくていいのですか? もしあっちがその『賢者』を見つけたら、殿下は王座に就けないんですよね?」

「結構直球で食い込むんだな、ユリアスは」

「いや、だって、レイフォードさん、この方は何も教えてくれないんですよ!? さすがに周りが騒がしいから気になるっていうか……一応、側仕えですし」


 確かにな……とレイフォードはラザフォードを見やる。

 視線が送られていることを感じてか、「馬が疲れてきているから、この辺で休憩しよう」と声をかけ、ラザフォードは馬の速度を弱めた。




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