峠の村②
大人しく一日寝ていたユリアスの体調は、次の朝にはすっかり元どおりになっていた。
薬の効果はてきめんだったので、やっぱり薬草が原因だという確信を得る事ができたし、その薬草が小麦泥棒のこの一件に関わっていると仮説も立てられた。
犯人の手がかりを掴めないまま月日だけが流れていて、色々絶望的な状況だったが、ここにきてやっと一筋の光が見え始め、気持ちが少し晴れやかになる。
薬草の種類を特定できれば犯人を捕まえられそうだ……ひたすら馬の世話や家屋の修理などに費やした時間が無駄にはならなくて、よかったと一人胸をなでおろした。
ユリアスは世話になった宿の人に礼をいい、医者代は後日払うと頼み込むと、もうすでに支払いは済んでいると言われた。
「あなたを運んできた人が薬代も上乗せして、払って行ったから平気。はい、これ、よかったら道中で食べなさい。ヒョロヒョロしているから薬草なんかにやられちまうんだよ!」
そう言いながら、パンにハムとチーズを挟んだ軽食をユリアスの胸に向かって押し付け、大きな手でユリアスの背中をバンバン叩く。
その好意をありがたく受け取り、ユリアスは宿を出発した。
初めて見る村の雰囲気は、魔導家の領地に点在する小さな村とよく似ている。
農業中心で発達しているこの村もまた、農作物用の小屋は必ず家屋と並列して立てられているし、店の数はそれほど多くなく、泊まった宿屋の一角しかない。
宿の人に描いてもらった地図を頼りに森へ向かって歩いて行くと、すぐ小麦が収穫されたあとの黄色い田畑が視界に広がり、懐かしい草の匂いがユリアスの鼻をくすぐった。
収穫の時に落ちた小麦の実を目当てに、鳥たちが色々な方面から飛んできて、思い思いについばむ姿は平和そのもので、この空間の時間だけがゆっくり、静かに、小さな小川の流れる花びらのように流れていた。
「みんな……元気かな……」
「なんだ、ホームシックか? ユリアス」
「え?!」
背後から聞き覚えのある声がして、ユリアスは急いで体をひねると、そこにいるはずもない人物が腕を組み、ニンマリと笑みを浮かべていた。
「で、殿下……なんで、 えっ? なんで、こんな所に?!」
「外では殿下と呼ぶなと言っているだろう? 調査は順調か?」
「それは……なんとも……ってか、なんでずっと迎えを寄こしてくださらなかったんですか!? ずーっとこき使われて、ほんと大変だったんですよ!!」
「いやぁ、それはすまなかった。もっと早く迎えにいく予定だったんだが、色々面倒な事があってな」
ラザフォードはあはははと笑いながら、ユリアスの両肩に手をおく。
全然笑えないユリアスは、そんな主人をすぐ許せるほど、広い心を持ち合わせていないので、キッと主人を睨みつけた。
「お前なら、ちゃんとうまくやってくれると信じていたんだよ。それに、ちゃんと見張りもつけていたから、命の危険はなかったろ?」
「見張り?! まさか−−−」
今度は背後から、馬の蹄の音がしたので、目を凝らすと、またもや見知った人物がこちらに向かってやってきた。
「ラズ、急にいなくなるなよ」
「すまない、ついな。ほら、ユリアスとも無事に合流できた」
「そりゃ、この場所を教えたのは俺だからね」
「指示を出したのは俺だが?」
フレンドリー会話を繰り広げる二人に目を丸くし、ユリアスはポカンと口を開けた。
一体何がどうなっているのか、一瞬頭がフリーズしかけたが、高速でメモリーを引き出し、ずっと引っかかっていた記憶の引き出しを開け、その中からパズルのピースを取り出し、うまくはめ込んで、答えを探す。
「えっと……お二人は知り合いだったんですね……。それで、僕を監視する為に若君が、レイフォードさんに指示して僕の動向を報告を入れていたと?」
「お〜!! さすが見込んだだけの事があるな! お前は勘がいい」
「この状況で全て理解できるとは、いい人材だな、ラズ」
「お褒めいただき光栄です……が、ちゃんとあなた方から説明してくださいよ!」
全く説明する気がなさそうな二人に向かって、ユリアスは吠えた。




