峠の村①
こう何度も何度も倒れるなんて、子どもか?と自分に言いたくなる。
この短期間で3回もぶっ倒れて、同じ人物に世話になってしまうなんて、さすがに出来そこないと領地で言われるユリアスも、人様に迷惑をかけていることが恥ずかしくて堪らなかった。
「だいぶ熱も下がったわね。はい、食事のスープ。飲めるかしら?」
親切にしてくれるこの女性は一体誰なのか??
ユリアスにはわからなかったが、様子からして村の宿屋の人だろうと推測する。
自分がどうやってここまで辿り着いたのかを念のため、この女性に確認すると、「騎士様があなたを担いで来られて、世話をしてやってくれとお金を置いていったのよ」と教えてくれた。
その騎士様は、もうすでにこの村を発ったとのこと。
それを聞いたユリアスは、自力で帰る方法を見つけないと……と自分の先行きを案じ始めた。
(ってか、もともと側仕えで王宮に上がったのに、なんでこう村を転々とする羽目になるんだよ!?)
心の叫びは20%は自分へ、残り80%はあのうつけの皇子への叫びだ。
(そろそろ迎えをよこしてくれてもいいじゃないか……まあ、こんな場所にいることなんて、あの方は知らないから迎えもよこせないか)
自分が一体毎日何をしているのか、なんのためにここにいるのか、もうよくわからない。
小麦泥棒の件の調査だったのに、手がかりを掴むどころか、自分自身が何かに捕まった感じだ。
「捕まった……?」
温かいスープにパンを浸しながら、ユリアスはあの市場へ来てから今までのことを回想する。
小麦泥棒はあの市場で盗みを犯すことはかなり厳しい。
役人の厳重な体制をかいくぐるのは、魔法でも使わない限り不可能に近いだろう。
かといって、道中何もなかったし、襲われたりもしなかった。
(何も……なかった? いや、変なことがいくつかあった気がする。地図に描かれていない道とか、あの霧と甘い匂い……)
ずっと頭の中で引っかかっている。
あの「父親」の姿−−−
どうして、あの場所で「父親」を見たのだろう?
「二日酔いのせいじゃなくて、霧のせい?」
どんなに会いたくても、夢でしか会えない人だ。
幻覚だとしたら、なぜ幻覚なんか……
『やっぱりなんか変だ。さっき誰かに変な薬とか飲まされたんじゃないのか?』
ふと、レイフォードに言われた言葉がよぎる。
変な薬を飲まされたはずはないが、幻覚を起こしうる可能性は薬の他にもあった……
(あの、甘い匂いが原因なのか?)
あの匂いは霧と共に現れ、どこかで嗅いだことがあるような甘い匂いだった。
でも、それがどこだったか思い出したくも、思い出せない。
ユリアスはう〜むと頭を抱えて唸り声をあげたので、食器を取りに来た宿の人が、「どうしたの!?」と急に扉を開けて、ユリアスに駆け寄った。
「だ、大丈夫です。すみません、考え事をしていただけなんです!」
「紛らわしいわねぁ……頭痛いのかと思ったわよ。そんなに何を考えていたのかわからないけど、あなたは病人なんだから、大人しく寝てなさいね。解毒剤置いとくわよ」
「解毒剤?」
「ええ、先生があなたを診察して、薬草の毒素にやられたんだろうっていってたわよ。あの森の中を通る人はよくあるみたいよ。あなたのような兵士を何人も見たことがあるって言っていたわ」
バタンと扉が閉めて、宿の人は去って行った。
置かれた解毒剤の袋を掴み、中の薬を確認すると、見覚えのある薬だった。
それもそのはず、それはこの国でよく知られている解毒剤で、ほどんどが魔導家の領地で生産されている。
そしてこの薬の原材料の薬草も、すぐユリアスには特定できたが、肝心の原因である薬草の特定はできない。
「甘い匂い、幻覚症状……これだけじゃ、なんの薬草の中毒なのかわからないな……」
でも、これは大きな一歩だ。
身を呈した甲斐があったと、どさっとベッドに横になる。
ここで考えても何も出てきそうにないので、体調の回復を優先し、とりあえず薬を飲んで再び眠りに落ちた。




