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深い森の中で③

「そんなに焦らなくとも、大丈夫だ。ちゃんと戻れるさ」

「どうやって? まさかこの崖を登るとか言わないですよね?」

「それは言わないが、この川をくだれば、町につく。歩けるか?」


 ユリアスは眉間にしわを寄せ、「大丈夫です」と反抗的な口調で言った。

 なんか調子が悪い。

 二日酔いのせいだろうか?

 頭痛だけじゃなく、体全体がだるくて、足が腕が自分のものじゃないようだ。

 

 そんなユリアスに気づいているのか、いないのか、レイフォードは歩き始めてチラチラとユリアスがちゃんと付いてきているのか確認していた。


「無理だったら、もう少し休むか?」

「大丈夫です」

「顔色が悪い……途中でぶっ倒れられても困るんだが……」

「だから、平気ですって」


 ユリアスの額から汗が流れている。

 まだ少ししか歩いていないのに、息が上がる。

 これは熱がある……ユリアスは自分でそう自覚したが、ここでそれを言っても仕方がないこと。

 なんとか街までたどり着かないと、このまま野宿になってしまう。


(さすがに、野宿だけはいやだなぁ……、もう本当にこんな生活からさっさと脱出したいよ……暖かい布団に包まれて時間を気にせずぐっすり眠りたい……)


 昔、兄弟たちとはぐれて森の中で一人で一夜過ごす羽目になった幼い記憶が蘇る。

 助けを呼んでも誰も返事はしてくれない、真っ暗な空間に取り残される恐怖−−−

 たまに夢で見ることがあり、その時は決まってぐっしょり汗をかいていた。


 この森となんか相性が悪い。

 あの甘い匂いと、霧とが合間って、心の奥に沈めたものたちが、出てきそうになる。


 ユリアスは、意識が途切れないように、自分に「大丈夫、大丈夫」と言い聞かせながら歩き続けた。

 さっきまで晴れていたのに、また雲が多くなってきた。

 生ぬるかった風が、急に冷たくなり、あたりの木々をさわさわと揺らしながら、谷間を通り抜けて枯葉を舞い上がらせた。

 川沿いをひたすら歩いていくのだが、もちろん舗装されている道ではないので、途中、大きい岩で行く手を阻まれる。

 

 テンポよく颯爽と岩を登るレイフォードと違って、ユリアスはなかなか登れない。

 手をかけても足が思うように持ち上げられず、ズルズルと落ちてしまう。

 そんなユリアスを見かねて、レイフォードはユリアスの腕を勢いよく掴み、引っ張り上げた。


「すみません……」

「お前、熱があるんじゃないか?」

「ちょっと体調が優れないだけです。大丈夫、さぁ、先を急ぎましょ」


 取り繕いながら、ユリアスは足を進めた。


「やっぱりなんか変だ。さっき誰かに変な薬とか飲まされたんじゃないのか?」

「変な薬? そんなの飲まされてません。きっと二日酔いのせいです」

「二日酔いはそんなに長引かないだろう? そんなに酒が弱いのか?」

「酒とはちょっと相性が悪いんです。はぁ、本当に……僕は何をやっているのでしょうね……小麦泥棒の調査にきているのに、何も分からずじまいで……こうやってあなたの足を引っ張って……」

「別に、お前が謝ることではないだろう?」

「でも現に、レイフォードさんまで隊からはぐれてしまっていますし」

「別に俺は臨時の兵だから問題ないさ」

「え?」


 今、なんかかなり重要なワードが聞こえたような……聞き返す為に、レイフォードと肩を並べようと足を速めた瞬間、ユリアスの視界がぐらりと波打った。

 それと同時にひどい耳鳴りで、とても立っていられなくなり、その場に倒れ込んだ。


「はぁ……強がっててもいいことはないんだぞ?」


 慌てることもなく冷静なレイフォードは、倒れたユリアスの額に手を当てる。

 やっぱり……とつぶやきながら、ユリアスを担ぎあげ、さっきと同じペースで歩き始めた。

 


 





 

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