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深い森の中で②

 ガラガララ−−−


 頭上からパラパラと石ころや砂が落ちてくる。

 

「くそっ」


 左手で岩を掴み、右手でユリアスの左腕をなんとか掴んだが、態勢は非常に不安定だ。

 意識がない人間を、この体制で引き上げるのはかなり厳しい。

 かと言って、足を引っ掛けるにも、崖の形から不可能。

 宙ぶらりんの体制がそう長くは持たないことは明らかだった。


「どうしたもんか……」


 そうつぶやきながら、下の状況を確認すると、真下には川が流れていた。


 あの関所は実は山の上にあって、この森は森というより山の地形。

 森と呼んでいるから、このような崖が点在しているなんて気づかない者が多く、転落事故が多かったので、舗装された道を一本にしてあるのだ。

 

「無駄に主人あるじの護衛をしてきただけのことはあるな……」



 この状況で余裕の独り言を言いながら、レイフォードは崖から左手を離し、両手でユリアスを抱え込んで、自ら落ちていった。



                   *********


 ゴホゴホっつ−−−


 ユリアスは自分の咳で目を覚ますと、仰向けに寝かされていた。

 上半身を起こすと、頭の下に敷いてあったのは騎士のエンブレムが刺繍されているジャケットがあった。

 慌てて飛び上がり、そのジャケットを抱え、持ち主を探して左右に首を回していると、背後から「もう大丈夫なのか」と聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「レイフォードさん……えっと、どうして?」

「どうしてって、誰かさんがフラフラと崖に突っ込んでいくのが見えたから」

「すみません、また、ご迷惑をかけて……」


 ユリアスはぼんやりとしている記憶を呼び起こし、自分の状況を整理しようとしたが、あれは現実だったのか、夢だったのかはっきりしなかった。

 今自分はずぶ濡れで、崖から落ちたということだけは、現実のようだが……


(どうして、レイフォードさんがいるんだろう……僕を監視しているんじゃ……)


 昨日から考えても、なんか引っかかる。

 こう何度も助けてくれるなんて、神から使わされた「天使」何か、それとも、悪魔から使わされた「監視役」なのか?


 先ほどからあぐらをかいて、両手で石をカチカチと擦り合わせているレイフォードを見ながら、ユリアスは眉をしかめた。


「くそ……水に濡れるとやっぱりダメか……」

「火を起こすんですよね?」

「そうじゃなかったら、なんだと思うんだ?」

「それ、貸してください。僕、やりますから」


 無理だと思うが−−−と言いながら、両手にすっぽりと治る火打ち石をユリアスに渡す。

 ユリアスはそれをぎゅっと両手で包み、レイフォードと同じように、カチカチと擦り合わせた。


「さすがに無理だ。石自体が弱っているし」


 カチっっつ


 パチパチと火花が散り、火の粉が枯れ草に燃え移った。

 そして、小さな火は瞬く間に風と混じり合い、薪を包み込む。


 おおっ……と感嘆の声を漏らすレイフォードに火打ち石を返し、ユリアスはずぶ濡れのジャケットを脱いで火が燃え移らない程度に側へ置いた。


 白い煙がゆっくりと空に向かって登っていく。

 もう辺りはすっかり霧が晴れ、雲の隙間から太陽がのぞいて、谷底をキラキラ照らしていた。

 ユリアスたちの他にはもちろん誰もおらず、近くを流れる川には獲物を取ろうと奮闘するサギたちがバシャバシャと水しぶきをあげている。

 日向ぼっこをするには、とてもいい静かでのどかな場所だが、現実問題そんな悠長なことをやっている場合ではない。

 こんな天気がそう長く続くとは思えないし、食料などの必要な物資は馬に積んだままだ。

 山で遭難なんて、一応公爵家の坊ちゃんであるユリアスは初めての経験で、さすがにちょっと余裕はない。

 そんなユリアスの内心を知ってか知らずか、レイフォードは淡々としていた。


「どうして、崖に突っ込んだんだ? 身を投げるつもりだったのか?」

「いやいや、そんなつもりじゃないです! まさか歩いて行った先が崖だなんて、霧でわからなくて」

「わかっている。ただの確認だよ」

「他の人はどうしたんでしょう? 僕らがいなくなったことに、気づいているといいのですが……」


 はぁ……とため息をつきながら、ユリアスはその辺に転がっていた枝で地面に丸を描く。


 この崖じゃ、登るのは不可能。

 かといって、迂回するにも場所がわからない。

 むやみに動くのは体力も奪われるし、危険だ。

 一体どうすればいい?


 一人これからのことを考え、う〜んと唸っているユリアスに向かって、レイフォードが「みんなとどうして逸れたんだ? 隊列を組んでいたからそのまま、まっすぐ進めばよかっただろう?」と投げかけた。


 そんなことより、今はこれからどうするか? を考えるべきだ。

 そう思ったが、助けてもらった手前、逆らわずに質問に答えることに……


「霧が濃くて、頭痛が酷くてなんか感覚がおかしかったんです。それに、なんか甘ったるい匂いが拍車をかけて」

「甘い匂い? それは急に?」

「急にというか……霧と一緒に? それがなんなのですか?」

「霧の中で、何か見たりしたのか?」

「ええ……まぁ……そうですね」

「何を見たんだ?」

「それよりも、今はこれからどうするか、考えましょうよ? 天気だっていつ悪くなるかわからないし!」


 確かに、さっきの一件は気になることだが、今はそれどころじゃない。

 優先順位は、今この状況から脱出して、みんなのところへ戻ることなんじゃないのか?


「どうしてそんなに怒っているんだ?」

「別に怒っていないです!」


 とうとう、ユリアスのイライラが爆発−−−危機的状況に陥ると、いつも冷静な人でも、平常心ではいられなくなり、今まで取り繕っていた仮面が剥がれる。

 体調の悪さもイライラを助長していた。


 もうユリアスの顔からいつものヘラヘラした笑みは消えている。



 







 


 



 

  













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