表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/168

小麦泥棒再び⑤

ガシャン−−−−−−



 ユリアスが呪文を唱えるや否や、一瞬にして瓶が粉々に砕け散り、テーブルの上へ破片が綺麗に刺さった。

 激しく割れたのに、誰もガラス片を受けることはなかったが、ユリアスの手からはボタボタと赤い血が流れ、テーブルへ滴っている。


「お、おい……なんだ……今の……」

「瓶が勝手に割れたぞ……」

「嘘だろ?」

「なんか仕掛けがあるんじゃ……」

「もう一度見せろ!! これじゃ、ほんとか分からないじゃないか!!」

「そ、そ、そうだ!!もう一回!!」


 せっかく静まり返ったのに、再びコールが。

 ユリアスはのせられて気分がいいのか、「じゃ、こんどはぁ、ちがうのやりま〜す!」なんてネタになりそうなものを探し始めた。

 手の怪我は気にしておらず、ポタポタと床にも血痕が落ちていく。


 ふらつく足で隣のテーブルへ行こうとした時、勢いよく腕を掴まれ、引き寄せられた。

 その反動で視界がぐらつき、本格的に目が回り、足を滑らし倒れこむ。


「はれぇ?」

「もうやめるんだ……大人しく寝てろ」

「うぐっ」


 抱えられた体制で、首筋あたりを手の甲で叩かれ、ユリアスは動けなくなった。

 お酒の酔いと、叩かれた衝撃で自分の体が自分のものではなくなり、この男を振り払うことすらできない。

 男はユリアスの両足に手を回し、抱え上げ、スタスタと歩いていく。


「おい、お前、これから面白いところなのに! 坊主を置いてけ!」

「そ〜だ、そ〜だ。これからが面白いのに!」

「隊長、さすがにこれ以上は明日の捜査に支障が出ます。万が一、馬が暴れた時はあなたが、どうにかしてくださるのですか?」

「それはだな……」

「ぶどう酒もこんなに開けて……。今夜は、『何も』なかった。それでいいですよね?」

「……ああ、そうだ。何もなかった」

「お先に失礼します」


 騎士の制服を着た男は、一礼し、ユリアスを抱え食堂を後にした。


                 

「大事な手を、あんなことで傷つけて……」


 抱えられたユリアスは、スースー寝息を立てて眠っていた。

 その寝顔を見たら、男の怒る気は失せ、代わりにため息に変わる。


 宿舎のベッドにユリアスを寝かせ、隣の部屋から救急箱を持ってくると、ベッド横のろうそくに火を灯す。

 ガラス片が手のひらに刺さっていないことを確認すると、慣れた手つきで消毒をし、止血のためのガーゼと包帯を巻いた。


「ん……」


 傷がしみるのか、ユリアスは腕を強張らせたが、起きる気配はなく、寝返りを打とうと上半身をねじった。


「明日は間違いなく二日酔いだな……」


 男は再び隣の部屋に行き、水の入った水筒を持ってきて、寝ているユリアスに無理やり飲ませ、使った薬品等を救急箱にしまい、ろうそくの火を消して、静かに部屋を去った。





                  ********




 「イタタタ……」


 朝目覚めると、ものすごい頭痛と、ズキズキとした手の痛みが走った。

 おぼろげな記憶を呼び起こし、やってしまった……と自責の念に襲われる。

 

「おい、起きたか、坊主。早く支度しろ! 出発だ」

「はい……」


 気づけば周りのベッドは空で、部屋にはユリアス一人だけだった。

 急いで顔を洗い、部屋を出ると、一人の騎士が立っていた。

 その騎士は短髪黒髪でユリアスよりも背が高く、体格もがっちりしていて、ユリアスが理想とする体型だった。


「大丈夫か?」

「えっと……大丈夫です。すみません。ご迷惑をおかけしたんですよね……本当に酒には弱くて……」


 目の前の騎士が何者かはわからなかったが、おそらく何かしら迷惑はかけているだろう。

 ユリアスは、深々と頭を下げた。


「大丈夫ならいい」


 そう言い残し、その男は去って行った。

 起きた時は気に留めてなかったが、右手には綺麗に包帯が巻かれていた。

 

(あの人が手当をしてくれたのだろうか……?)


 ユリアスも彼の後を追う。

 

「お〜! 坊主、昨夜は楽しかった。俺ら的に考えたんだが、お前、あらかじめあの瓶にヒビを入れてたんだろ? ちょっとの力で割れるようにさ」

「それか、誰かと組んで瓶を射抜いたとか?」

「え……あの……」


 食堂に入るなり、騎士のメンツが肩に腕を回し、何やら種明しをしろと、せがんでくる。

 ユリアスは何のことか、さっぱりわからない。

 大量のぶどう酒を飲まされたことは覚えているのだが、自分が何をやらかしたのかは、これっぽっちも思い出せないのだ。


「昨日……僕……なんかしましたか?」

「覚えてね〜のか?! お前、みんなの前で魔法みたいに一瞬で瓶を割ったろ?!」


 ユリアスの顔から血の気が引いた。

 やっぱり、派手にやらかしていた。

 それも、この多人数の前で。


(どうやって誤魔化せば……)


 ユリアスは一瞬パニックに陥った。

 再び自分の頭から記憶を引っ張り出そうと試みるが、もちろん出てくるはずもない。


「もったいぶんなよ〜!? 隊長も知りたがってたぞ」

「えっと……それは……そうですね……」


 はじめに言われた、瓶にあらかじめヒビを入れておいた案を採用することに決め、口裏を合わせようとしたちょうど、その時−−−−−−


「俺が射抜いたんだ。飲み会の前に一発派手にやろうって、こいつに頼んで」


 背後から低い落ち着いた声が聞こえた。


「何だ……レイフォードとぐるだったのかぁ〜」

「本当の魔術かと思ったぜ。おどかせやがって!!」

「なんだよ……つまんね〜な」


 この話はやめやめ、というように一気にユリアスに群がっていた騎士が去って行く。

 ユリアスはレイフォードと呼ばれた騎士を見た。

 

(さっきの……)


 その男は、先ほど部屋で「大丈夫か」と聞いてきた黒髪の騎士だった。

 

 


 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ