小麦泥棒再び④
「おい、馬の世話が終わったらお前も中に入って休め」
「はい、わかりました」
ユリアスを除いた他のメンツは、さっさと関所隣の建物へ入って行った。
雨は少し強さを増し、馬小屋の屋根を叩きつけている。
ランタンを手に持ち、ユリアスは馬が繋がれているか、様子がおかしいものがいないかを確認していく。
(これでも一応、魔導家当主の次男なんだけどな……だんだん自分の身分がわからなくなってくるよ)
ため息をつきながら、淡々と馬の瞳や呼吸を見ていく。
特におかしい馬はいないので、ユリアスもみんなの元へ向かおうとフードを頭にかぶる。
「雨……上がるといいな。上がっても、あしたは霧だろうな」
ふと、あの道のことを思い出した。
地図にはないもう一本の道。
地図にはないのに、誰もその道の存在について話していなかった。
地図が間違っているなら修正をかけるべきなのに……
「おい! 早くしないとお前の分の飯なくなるぞ?!」
「はい、今行きます!!」
ここで考えても仕方ないので、ユリアスは考えるのを一旦やめて走り出した瞬間、背後で何か気配を感じ立ち止まる。
振り向いても、誰もいないし、何もない。
でも、茂みの奥へ何かが走っていったような……ユリアスはじっと目を凝らし、茂みの奥を見つめる。
「坊主、どうした?!」
「いや……なんか気配がして……」
「イタチとか、鹿だろ?」
「……そんな感じじゃなかったような」
「雨強くなって来たら、早く入れ! 風邪引くぞ」
ユリアスは首をかしげ、建物の中へ入って行った。
*******
「お〜坊主、こっちだ、座れや」
手招きされたので、ユリアスは騎士団隊長の元へ。
(どうか、身分がばれませんように……変なことに巻き込まれませんように……)
心の中で何度も祈りながら、隊長に会釈し、「お疲れ様です」とにこやかに声をかけると、腕をひっぱられ強引に隊長の隣の椅子へ座らされた。
そして、グラスを持たされ、なみなみにぶどう酒を注がれる。
「ほら、飲め! 疲れたろ?」
「いや、あの……」
「隊長が入れた酒だぞ! 早く飲め!」
「僕は未成年で−−−ちょっと−−−」
「構わんだろ!? お前の故郷は酒を飲まんのか?」
「飲みますが……ほんと、僕は……」
「焦ったい!!」
隣の騎士が立ち上がり、グラスを持ち上げ、ユリアスの顎を掴んだ。
そして、勢いよく口にぶどう酒を注ぎ込む。
「こんないい酒、お前なんか滅多に飲めないぞ、坊主!! 隊長に感謝しろ!」
「そうだ、もっと飲め、飲め!!」
騎士達は待ってましたと、ワーワーと一気に盛り上がる。
どうやら、これが騎士団の慣習らしい。
一番下っ端の者を彼らなりに労っての行為なのだが、ユリアスにとって完全に迷惑行為の何物でもなかった。
ラザフォード皇子の前でも飲まなかったのに、なぜこんな場で飲まなければならないのか……
(頼むから……コレ以上は……無理……)
何か食べて入れば、まだましだったかもしれないが、疲労と空腹がアルコールの回りを加速させた。
グラスが空になると、また誰かがぶどう酒を注ぐ。
「肉も食べろ、坊主。そんなガリガリで……。どこ出身だ?」
「にし、りょうです……」
「西領? 魔導家か?」
隊長がぶどう酒を飲みながら、ユリアスに尋ねる。
そんなユリアスはもうできあがっており、目をとろんとさせ、ゆらゆらと左右に揺れている。
「魔導家は貧乏だから、お前がガリガリなのもわかる。かわいそうになぁ〜ちゃんと食わしてもらえないんだろ? な〜んにもないもんな西領は」
「奇妙な術で食ってるんだろ? お前さんもその魔術ってのはできるのか? どうせ、インチキなんだろう?!」
ガハハハ……と食堂内に笑いが起こる。
ここにいる騎士団は武道家出身で編成されている騎士団だ。
だから、魔導家のことを悪くいうものはいても、擁護してくれる人はいない。
「魔導家をわるくいうな……魔術は、まほうはインチキなんかじゃ、ない!!」
ユリアスは勢いよく立ち上がり、グラスをテーブルへ叩きつけた。
フラフラしながら、ユリアスは目の前の騎士達を睨みつける。
「魔導家の作る薬がなかったら、……とっくに、疫病でおわってる……んだ。すべての……げんしょうに……はことわりがある。自分のりえき、ヒック……ばっかり考えてる奴ら……には、かなら……ずそれなりの……」
「じゃあ、見せてみろ! その魔術とやらを!!」
「そーだ。そーだ!! 見せろ、見せろ!!」
どこからともなく、コールが沸き起こる。
隊長も面白そうに、「お〜やれ、やれ」と煽っているので、部下達は一層声を大きく、ユリアスを煽った。
「じゃ〜やりますよぉ!! 後悔してもぉ、知リマセンよ〜離れてクダサイ〜」
ユリアスは徐ろに、空のワイン瓶を逆さに手に持ち、頭上に掲げた。
なんだなんだと、後ろの席の者は立ち上がり、近くに寄る。
『風よ、我が願い、聞き届けよ−−−』




