小麦泥棒再び③
「見張っているルート以外の道を使った東領の馬車が狙われ、小麦の量が帳簿と合わないと?」
「そうだ。今回は小麦だけじゃなく、鉱石なども合わない。馬は暴れるし飛んだ災難だ。これ以上被害を増やさないようにするために直ちにそのルートの調査に行くことになったから、お前も同行するように」
「僕が行っても役には立ちませんよ?」
ユリアスがそう言うと、その場を取り仕切っていた騎士ががっしりユリアスの両肩を掴み、「そんなことはない!」と真剣な顔で首を振った。
「お前さんは、もう二度も馬をなだめているではないか。馬が万が一暴れでもしたらこちらに被害が出るし、馬がなければ調査はできない。なんだかんだで距離があるからな。頼むぞ、少年!」
「は、はい……」
気合いに気圧され、ユリアスは騎士団とともにそのルートを辿ることになった。
ふああ……とあくびをしながら、ユリアスは与えられた馬に乗る準備をする。
と、そこへ大きな鞄を持ったラジがやってきて、ユリアスにその鞄を投げてよこした。
その鞄には食料と水、防寒具が入っている。
「ラジ先輩はいかないんですか?」
「俺は馬に乗れないからな! まぁ、頑張ってこいや。ここで手柄をあげれば、お前の借金もなくなるかもしれないんだからな」
「……はい。これありがとうございます」
「それくらい、先輩としての務めだ」
ラジに別れを告げ、ユリアスは騎士団が集まっている城門に馬を連れて行く。
もう身支度は済んでいるらしく、騎士達はルートの確認をしていた。
ここから自由になるためには、自ら手柄を立てて自力で脱出するしかないようだ。
ひたすら待ったところで、あの皇子が迎えをよこすわけがない。
(一応、魔導家当主の次男坊なんだけどな……)
「ユリアス、お前は真ん中に入れ。少しでも馬の様子がおかしかったら、すぐに伝えろ」
「はい。かしこまりました」
そして、ユリアスを挟んだ騎士団が市場を出発した。
*******
どれぐらい走っただろう?
森の中は生い茂る木々のせいで薄暗く、道はお世辞にもいいとは言えないが、辛うじて荷台を引いた馬車は通れるぐらいの幅だった。
ユリアスはラジから受け取ったローブを頭からかぶっているが、若干肌寒かった。
木々の隙間から見える空を見ると、太陽は出ていないようで、雨雲が風に吹かれこちらへ流れてきている。
(雨が降り出しそうだな……はぁ、全くもってついていない)
ユリアスは、朝早く叩き起こされ寝不足なので極力体力を使いたくない。
雨が降ってきたら、否が応でも体力を奪われてしまう。
さっさと調査を終えて、温かい布団にくるまって寝たい。
そんなことを考えながらひたすら森の中を進んでいくと、道が合流するポイントに辿り着いた。
「一本道じゃなかったんだな……地図では一本道だが」
隣の騎士が地図を広げ確認する。
東領からやってくると、ここで右と左の道を選ばなければいけないのだが、公式の地図にはそんなことは書かれていない。
さぞかし農民や商人はどちらにいくべきか、迷っただろう。
でも、そんなこと誰も言っていなかった。
彼らはどちらを進めばいいか問題じゃなかったのだろうか?
ユリアスは首をかしげ、自分たちが来た方じゃない道を見つめた。
その道は自分たちが来た道とそう変わらないぐらいの舗装された道で、通るには問題なさそう。
「あの……、狙われた荷台を引いていた人は、どちらの道を通ったのでしょう?」
「さあな、そんなこと一言も言ってなかったからわからない。なぜ細くもない道なのに地図にない?」
ユリアスは何か引っかかった。
もう一つの道の先に何かがあるような気がする。
でも、この一団を率いている団長は、そんなことに見向きもせず馬を走らせているので、前の列との間が空いてしまった。
「おい、何を止まっている!? 置いていかれているぞ!?」と後ろから催促されたので、後ろ髪が引かれたが、ユリアスも馬を前へ進めた。
それから少し馬を走らせたのち、川辺の近くになったので、馬を休ませるために休憩をとることになった。
ユリアスがカバンから水筒を取り出し水を飲んでいると、騎士に「おめえ、借金返済のために売られたんだってな。かわいそうに。主人は一回でも面会に来たのか?」と声をかけて来た。
「まさか〜僕の主人は絶対来ませんよ。薄情なお方なんで」とユリアスは笑ったが、心の中では悪態をついていた。
(手紙の一通ぐらいよこしてくれてもいいのに……ああ、やっぱりあの時、辞めておけばよかった)
少しはこちらも気にかけてほしい−−−と思う自分は甘いのだろうか?
この怪奇事件を調査を丸投げして、あのうつけの皇子は何をしているのだろうか?
「自分で調べろっつーの」
「なんか言ったか?」
「いえ! いや〜雨がふりそうですねぇ〜」
ユリアスがそういいながら空を仰ぐと、ぽつぽつと雨が降って来た。
「おい、お前ら、もうすぐ関所だから、今日はそこで休む」
「はい!」
そして一団は関所を目指し、馬を走らせた。




