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小麦泥棒再び①

 ユリアスはとりあえず着替え、濡れた髪を薄い布で軽くふき、言われるがままに市場へ向かう。

 その時も何があったのかをラジに聞くが、ラジは「小麦泥棒がまた出た」という情報しか与えてはくれなかった。

 一体何がどうなっているのか分からない。

 ため息をつきながら、ユリアスは役人が群がっている市場の入口にたどり着くと、馬が鳴く声とひづめ、男たちの叫びが響き渡っていて、それだけで何が起きているかなんとなく理解できた。


――――また馬が暴れてるのか


「おい、ユリアス、お前、この間みたいにあの馬たちを沈めろ! 馬使いなんだろう?」

「馬使いって……人を何だと思って……」


 眉間に皺を寄せているユリアスをよそに、ラジは、ぐいぐいとユリアスを騒動の中心へ押しやった。

 面倒なことに巻き込まれたくないのに、と思いながらも、仕方がなくユリアスは馬の元へ行く。


 暴れまわっている馬は前回とは違い、二頭。

 一度に二頭も相手できるとは思えない。

 一頭と対峙している間に、後ろから蹴り上げられそう……


 そんな二頭の暴れ馬に縄を掛けようと、役人たちは躍起になって追いかけるが、馬の脚に敵うわけはなく体力だけが奪われていく。

 ずいぶん鬼ごっこをしたようで、馬屋担当の役人数名は、道の隅でぐったりと腰を下ろしていた。

 

 そして頼みの綱である騎士はというと、鞘から剣を抜いてはいるが、こないだの騎士とは違って、構えているだけで何もできずに突っ立っているだけ……


 駄目だこりゃ、と騒動を見守る市場の者たちは、ユリアスを見つけるなり、ラジと同じように腕を掴み、待っていた!とばかりに馬のいる方へ連れていく。


「っちょっとさすがに二頭は――――」

「お前しか、この騒動をどうにかできん! 見て見ろ、いまいる騎士は全く役に立たんし、あの馬も実は宮中への献上品なんだ。だからうかつに怪我をさせたり、殺したりできない」

「それはわかるんですが、小麦泥棒が出たっていうのは? 」

 

 馬よりも、小麦泥棒の詳細が聞きたいユリアスはこんな状況でも、諦めていなかった。

 呆れられるかと思いきや、馬をなだめてもらえるならお安い御用だと言わんばかりに、ざっくりと、ことの状況を教えてくれた。


「騎士様が見張っているルート以外の道を使った東領の馬車が狙われた。この馬と荷台で運んできた小麦の量が計量と帳簿と合わないんだ。で、事実確認をしていたら、こいつらが急に暴れ出してよ……」

「そうなんですか」

 

 もっと詳しく聞きたかったが、ユリアスは目の前で鼻息荒くこちらを睨んでいる、漆黒の馬が自分を狙っているのに気が付き一時中断する。


 献上品なだけあって、とてもしなやかな体つきと、美しいたてがみ、それに鼻筋と目の周りは白で縁取られていて馬の中でも美形だ。

 しかし、そんなイケメン馬も今じゃ猛獣と化して、ユリアスに突進しようとしている。


 どうしたものかと、背後から近づくもう一頭を把握するため体をひねる。


 近づいてくるもう一頭の馬は対照的に突進してくる様子はなく、黒い馬とは違う様子で、走ってくる。

 雪のような真っ白な毛並みに漆黒の瞳、鼻息は荒いが、少し様子がおかしい。

白馬は挑んでくる様子ではなく、様子を伺っているようで、ユリアスの近くまでくると、速度を落とした。


「大丈夫……大丈夫。お前たちに何もしないから……」


 危害を加えそうな黒い馬を先に鎮めようと、ユリアスは手を差し出し、こちらは何も危害を加えるつもりはないことをアピールする。


 馬から視線をそらさず、語りかける。

 そして一歩……また一歩と我を失った黒い馬に近づいていく。


 その様子を遠くからじっと見つめる役人と騎士たち。

 じりっ、じりっ……となるべく音を立てずに、ユリアスは距離を縮める。


 とその時、生暖かい風がユリアスと馬の間を流れた。

 ただの風なのに、あまったるいどこか懐かしい匂いがユリアスの前髪を揺らす。

 

「えっ……?」


 そのたった一瞬、ユリアスの気が緩んだ。

 その一瞬を馬は見逃さず、黒い馬は前足で地面を勢いよく蹴り上げ、空中に放り出し、ヒヒーンっと鳴き声をあげた。

 そして次の瞬間、周りの物を頭で蹴散らしながら、ユリアスめがけて勢いよく突進する。


「うわっ!」


 間一髪のところで、ユリアスは両手を地面につき身をかわす。

 ちょっとでも遅れていたら、間違いなく頭蓋骨をあの美脚で割られただろう。

 ドクドクと心臓音が速くなった。


「さすがに困ったな……」


 この間のようにうまくいかない。

 かといって、王宮に献上する馬を簡単に殺すわけにはいかない。

 ユリアスは眉間に皺をよせ、う~んと唸り声を上げた。


 『かわいい顔してるのに……性格はちっともかわいくない……さっさとどうにかしたい……殺してしまえば……?』

 

「だめだ……しっかりしろ! 」


 バチンと自分の頬を叩き、邪念を振り払う。

 いくらなんでも、簡単に殺しては駄目だ、僕は一体、どうしたんだ――――?

 ユリアスは大きく頭を左右に振り、もう一度黒い馬と対峙する。


 馬は今か今かと機会を伺いながら、ユリアスの周りを旋回し始めた。

 ユリアスはその馬の手綱が垂れているのを確認すると、もう一度手を差し出し、「大丈夫……」と声を掛けた。


 さっきから何もせずにじっとしている役人や市場の者たちは、息をのんでその様子を遠くからじっと見つめている。

 広場にはユリアスと馬二頭だけ。

 白馬はというと、よろよろと歩き続けている。

 

 こいつなら、捕まえられそうだと、勇気を出した騎士が白馬に近づこうとした瞬間、白馬は後ろ脚で思いっきり騎士の横腹を蹴り上げ、黒い馬と同様に暴れ出した。



 


 


 


 

 





 













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