出会い③
(噂通り、人使いが荒い皇子だな……)
ユリアスは、さっそく目の前に高く積まれた本を右手でとり、左手の上へ載せていく。
しかし、厚さ5センチのハードカバーの本は両手で持っても7冊が限界……
しかし持つだけなら7冊は可能だが、扉は開けられないし、階段も厳しい。
「おい、その本は絶対に落とすなよ。貴重な本だからな」
「……はい……」
「私は今から、こいつと出かけてくる。夕方には戻る」
「……い、いってらっしゃいませ」
――――バタン
広い部屋に、ユリアスと大量の仕事だけが残された。
「どうしよう……。運ぶだけで、一日が終わりそう……」
ユリアスは、ため息をつきながら、持とうとしていた本を机の上に置いた。
そして、おもむろに胸のポケットから黒い手帳を取り出し、さっき言われた仕事をメモしていく。
「本を西の塔の書庫に戻す。庭に置いてある植物の水やり。水は井戸から汲んでくること。それから、薬剤師の元へ行って、荷物を受け取る。関所からの調査票を優先事項順に並べて、庭師の元に行って新しい種をもらってくる……。これで全部だよな」
数えると、5つの用事。
数は大したことないように思うが、内容がすさまじい。
それも、自分は今日初めてこの王城へやってきたのだ。
どこに何があるのか、薬剤師はどこに行けば会えるのか、井戸はどこにあるのかすら、見当もつかない。
「あの皇子は鬼だ、悪魔だ……。噂では聞いていたけど、ここまでとは……」
落胆している暇はない。
ユリアスは、行動の順番を考え始めながら、父親からもらった王城の地図を広げた。
王城と呼んでいるが、正確には一つの城を指しているわけではない。
広大な土地に、東西南北に小城が建てられていて、それぞれを大きな館と広い回廊でつないでいる構図となっている。
今ユリアスがいるのは東の小城である『東宮』。
皇帝陛下がいるのは『南宮』で、基本的にここは皇帝陛下の許可がある者以外は立ち入り禁止とされている。
「書庫があるのは西の塔……遠い……な……」
それも、全ての小城とそれぞれの塔につながっている教会を通過していかなければならない。
教会を囲むようにすべての城や館、塔は建てられ繋がっている。
教会と呼んでいるが、実際は中央行政として位置づけされているので、通過するだけでも身分チェックは厳しい。
外内部からの書簡の受け取りをはじめ、騎士団や貴族院の本部などもあり、重要な情報や役人たちが厚もあるのも教会である。
そんなところを何度も何度も通るわけにはいかない。
通るだけでも時間を無駄に消費する。
「薬剤師がいるのもきっと教会だろう。問題は庭師だな……。一体どの庭師のことを言ってるんだろう……」
広大な土地の手入れを任されている「宮廷庭師」が一人や二人のはずはなく、それぞれの管轄で何十人も働いている。
その中から、あの殿下が言ってる庭師を見つけ出さないといけない。
「ちゃんと名前を聞いとくんだった……」
ユリアスは、ぶつぶつ言いながら、さっき書いた『やることリスト』に番号をふっていく。
「えっと、まずはこれらの本を教会へ持っていく。預けている間に、関所からの調査票を受け取り、薬剤師の元に走る。で、庭師の情報をゲットして、本をもって西の塔へ。よし! 行ける!」
そして、ユリアスは本を一冊も持たずに、部屋から飛び出していった。