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華街③

「どうしてそう思う?」

「いつものあなたなら、ちゃんと目安箱の儀は出席するはずでは? 教会へ行き、関係者に聞いてみたんです。あなたは、目安箱の儀に関しては、ほとんど欠席したことがないと。それに、先ほど内容を知っていたとおっしゃっていましたね。でも内容を知っていたら行く必要がないと、あなたはそう楽観的な考えはしないと思いました」

「そんなことはわからんぞ? 私はうつけの若君だから」

「僕に行けと命じた時、僕はひどい有様でした。でも、あなたは、『今そんなお前が必要だ』と言っていました。そんなお前というのは、この眼帯をつけた目立つ姿の僕のこと。当主たちに僕を印象付けるにはこの眼帯はとても都合がいい」


 くくく……と肩を揺らし、ラザフォードは笑っている。

 何か間違ったことを言っただろうか――――?

 ユリアスは、「ま、間違ってますか?」と若君に問いかけた。


「いや、間違ってはいない。じゃあ、聞こう。どうして、私はあの当主たちにお前を認識させたいんだい?」

「それは――――あなたが『うつけの皇子』だと知らしめるためでしょう? あなたは、自分はだらしない、どうしようもない皇子だと、演じているのではないですか?」



 彼に仕えてまだ、二週間とちょっと。

 正直、ずっと側で仕えていたわけではないが、振られる雑務内容や、いろんな人の話を聞くうちに、そう感じる節がある。

 この人は誰よりも先回りして物事を考えているのではないだろうか?

 じゃなきゃ、あんな仕事をあのタイミングで命令したりしないだろう。


「なぜ私が演じる必要があるのだ? そんなことしたって、私の利益にならんだろうが」


 バカも休み休み言えというように、若君は目の前の料理をつまんだ。

 一方のユリアスは、目の前に注がれたブドウ酒のグラスをじっと見つめながら、ふっと笑う。


「利益になるじゃないですか。だって、武導家と商導家を出し抜くつもりでしょ? うつけの皇子と思われているうちは、彼らはまさかあなたが、自分たちの懐に入り込んでいるなんて夢にも思わない。そのうえ『賢者探し』に忙しい。黒幕を暴き出すには絶妙な機会だ。ずっと、あなたは機会を狙っていた。違いますか?」

 

 カチャ――


 ラザフォードは持っていたフォークを皿の上に置き、食べるのを止めた。

 そして、青い目をユリアスに向ける。

 それはたくさんの石ころからたった一つの宝石を探すような、鋭い視線。

 それにこたえるようにユリアスもまた、視線をラザフォードに向けたまま、彼の返答を待った。


「さすがだな。やはり私の目に狂いはない。お前は私の側近として使えるべきだ。側仕えなんて軽い立場じゃなくてね。どうだ? 私の側近にはならないか?」

「お断りします。僕は魔導家の為にあなたに仕えているだけです。地位も名誉も別に欲しくはないんです」


 初日に言われたままの言葉を再び聞かせられたが、ユリアスの心は揺れ動かない。

 そんなまっすぐで意思が固いユリアスに向かって、ラザフォードはお手上げだというように、両手をあげた。


「他の者だったら喉から手が出るほど欲しい言葉だろうに、お前は変わり者だな」

「それはあなたも同じでしょ、若様」


 にこっとユリアスは笑いながら、自分もさすがにお腹が空いているので目の前のローストビーフを小皿にとり、切り分け口へと運ぶ。


「で、『小麦泥棒事件』の真相はお分かりになったんですか? 僕をあれだけこき使って資料をまとめさせたんですから」

「わかりそうで、わからないからお前をあの場へ送ったのだよ」

「やっぱり。僕をあの会議に送った第二の理由ですね。わかったのは、商導家と武導家が関与しているということだけです。片方だけなのか、それとも両方なのか、あれだけでは証拠が不十分ですね」

「では、他に何を調べればいいと思うのだい?」


 ユリアスを試すように若君は言う。

 どうせわかってるくせに……と思いながら、「そりゃ、領地から市場の経路とか、市場の構図とか、人の流れとか実際に見ないと」と水を飲みながら言う。


「じゃ、それの調査に行ってみようか、私の優秀な側仕え殿」

「えっ?」

「すでに準備は整っているから、お前は何も心配しなくていい」

「だ、だから一体どういうことで――」


 ユリアスが言うより先に、勢いよく扉が開かれた。


「おい、どいつだ?! 博打でつくった借金を返してくれる身代わりはよぉ?!」


 ガラの悪い大柄の獣のような男が扉を蹴破り入ってきた。

 ユリアスはとっさに立ち上がり、ラザフォードの前に立ち塞がる。

 しかし、当のラザフォードは緊張感のない声で男に話しかけた。


「この者だ。よく働くので問題ないぞ。悪いようにはしないでくれよ? 怪我もしているしな」

「怪我してんのにちゃんと働けるのか? おいお前、お前は今日からうちの下人だ。こい!」


 いきなりユリアスの腕を掴み、ぐっとねじる。

 あまりの力にユリアスは振り払うことができないが、せめて何もわからないまま、連れていかれるのだけは避けたかったので、必死に叫んだ。


「ちょっと、若、一体どういうことなんですか?! 借金って――?!」

「お前はこいつの借金代にされたんだよ。博打で大損して、持っていた剣だけじゃ掛け金を払えず、その対価にお前を売ったんだ。じゃ、こいつは頂いていくからな!」

「わぁかぁ~!!」


 ユリアスの必死な叫びにも、若君は動じず、ひらひらと手を振って見送るだけだった。










 

 





 

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