華街②
「ここ、普通の酒場ですよね? 一体何が――、って若様?!」
あっけにとられているユリアスを放っておいて、主はさっさと中へ入っていった。
「若旦那、お待ちしておりました。さぁさぁどうぞ!」
「若様、よくおいでくださいました。お待ちしていたのですよ」
「今日はいい酒を取り揃えておきました!」
どうやら、若君は御用達らしい。
皆に挨拶を交わしていくその姿から、かなりここへ入り浸っていることが手にとるように分かる。
店主に案内された部屋は、この店の奥にあり、今まで通ってきた通路やホールとは比べ物にならないくらい豪華な部屋だった。
簡素な作りの店からは信じられない装飾、きらびやかな調度品たち。
一体この店はなんなのだろう――?
ユリアスは、神経を研ぎ澄ませて観察していく。
「ではごゆっくり」
そう言い残し、店主たちはテーブルに料理やら酒やらを並べて、給仕の女を3名残して去っていった。
テーブルに用意された料理たちは二人では食べきれない量で、宮中の料理と同じぐらい豪華なものだった。
ユリアスは眉間に皺をよせ、若様をじっと見つめる。
「なぜ、そんな怖い顔をする。昨日のお前の功績をねぎらって連れてきたというのに――――」
「そんなの頼んでませんし、ちゃんと説明もされてません。一体何なんです?」
若君は、とりあえず座れと、目の前の椅子を指した。
ユリアスはとりあえず座ることに。
「目の腫れは少しは良くなったのか?」
「え? あ、はい。昨日よりは……でもまだちょっと人前にさらせるほどではなく……」
「そうか。でも、治ってもしばらくそのままでいてくれ」
「なぜですか? 仕事をするうえで、視界が狭いのはちょっと困るのですが」
「眼帯をしている方がみんな優しくしてくれるだろう?」
「?」
ユリアスが首を傾げると、まぁ飲め、とブドウ酒が入ったグラスを掲げてきた。
「ここのブドウ酒はおいしいんだ」
「すみません……が、その……お酒はちょっと」
「なんだ、飲めないのか? お前、魔導家当主の息子だろう? 酒宴の席ではどうしてるのだ?」
「僕は次男なので、酒宴には参加しません。体質的にちょっとお酒は苦手なんです」
「弱いのか。つまらんな。飲めば飲むほど強くなるぞ? 料理もおいしいから遠慮なく食べろ」
「ありがとうございますって、若様! 毒盛られてるとか思わないんですか?! ここは一般酒場ですよ?!」
そう言いうユリアスをよそに、若君は気にせずブドウ酒を飲み干し、「あっちの方が命を狙われる確率が高いぞ?」なんて笑いながらグラスをあけた。
さらっと、自分の質問はブドウ酒とともに流された気がする……ユリアスはじっと若君を見つめると、
すかさず、給仕の女が空になったワイングラスに赤いブドウ酒を注ぐ。
そして、彼女は緊張した面持ちで、ささっと二人のテーブルから離れる。
どうやら、ユリアスが給仕を睨んでると勘違いされたようだ。
若君が、「お前たち、下がってよいぞ。必要あらば呼ぶから――」と声をかけると、すぐさま給仕たちは部屋から出て行った。
なかなか思うようにはことは運ばないな――と、ユリアスがグラスの水に口をつけようとした瞬間、
「では、お前の昨日の報告というか、お前が聞きたかったことを答えようか、何から聞きたい?」と、ラザフォードが部屋から全員出て行ったのを確認すると、目を細めてユリアスを見据え言い放った。
いきなりの展開に、ユリアスは目を瞬く。
グラスに口をつけたまま、動きが止まった。
この人は自分の考えを見抜いているのだろうか――?
ユリアスは二度目を瞬かせ、そしてゆっくり口を開く。
「昨日の目安箱の儀、殿下はご存じだったのですね」
「まあな。事前にどういう内容かは神官を通じて教えてもらえるから」
「あの儀を取り仕切ってるのは教会ですね。殿下の目的は、商導家と武道家の当主に僕を認識させることだったのでは?」
昨晩考えた末の、自分の結論――――
果たして、目の前の主はどう返してくるか――――
ユリアスはじっと返答を待った。




