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目安箱④

「武導家の脳みそは筋肉でできているようだから、我々の頭脳についていけないのだろう。だから利益の一つも上げられない魔導家と一緒にされているんだ。我々商導家にとってはずる賢いは褒め言葉。ありがたく受け取る」

「魔導家なんかと一緒するな。我が領地の者は、日々武術を鍛錬し帝国の安定のために従事している。我らがいなかったらこの国は他国から侵略を受けておるぞ!」

「おっと、失礼、ユリアス殿は魔導家だったね。気を悪くしないでおくれ」

「……お気になさらず」


 (なんでこの場に直接関係ない魔導家が引き合いに出されるのか――)


 その一言を絞り出すのでユリアスは精一杯だった。

 ちょっと気を緩めたら、怒りが爆発しそう。

 本当のことだけれど、こうやって罵られる引き合いに出されるのは気分が悪い。


 ユリアスは握っていたペンをさらに強く握りしめ、怒りを抑えることに徹し、話を元に戻すことに。


「ダル・ゲイルさん以外の方も、同じ目にあっているのですよね? ダル・ゲイルさんと同じ考えなのですか?」


 口論している二人を差し置き、ユリアスは真ん中に座っているものに質問を投げかけた。

 その男はダル・ゲイルよりもずいぶん若く見えるが、髪の毛や顔つきはずいぶんくたびれていて肌に張りはない。


「さようでございます。村長にもこの件を話し、皆で考えてこのような結論になったのでございます」

「では盗まれたのは、関所か市場と考えているのですね?」

「はい。それ以外にはありえません。市場へ向かうまで、我々は馬に荷台をひかせておりますので、かなりの速さで走行しております。そんな荷台に飛び移り、小麦の袋を持ち運ぶことは不可能です。ですから、馬が止まる関所か、市場のどちらかしか考えられないのです」

「なるほど。道中、馬を休ませたりはしていないのですか」

「はい。それほど遠くはありませんので、そのまま馬を走らせ続けておりました」

「わかりました。ありがとうございます」



 ユリアスは今聞いたことを、一字一句帳簿へ書き留めていく。

 聞けば聞くほど、ユリアスの脳内でいくつかの単語が浮かび始める。

 何かがひっかかる――でも、それは疑惑で確信ではないから、伏せておくことに。

 

 二人の当主は、そんなユリアスに気付くはずもなく、ユリアスの様子をただじっと見つめるだけ。

 ウォルター卿は気だるそうに、頬杖を突きながら、民衆に向かって言った。


「では、お前たちが考えている泥棒を市場か関所で目撃したものはいるのか?」

「それは……」

「いないのか? それを見つけることがお前たちの要望なのだというが、お前たちの話を聞く限り、非はお前たちの方にもあるのではないか? 税を納めるまで、農作物を管理するのも農民の役目だろう?」

「そうではございますが……わたくしたちは、もうどうしていいか……」

「9件という件数もそう多くない。帳簿のつけ間違えも無きにしもあらずだろうが。中央から役人を派遣し、再度調査に当たらせる。グレゴリオ卿、そなたの領の役人の身の潔白もはらしたいだろう? 武導家からも騎士を派遣し、しばしの間警護にあたらせよ」

「お前に言われなくともそうする! 最高レベルの騎士を市場までの道中警備に当たらせるゆえ、安心しろ」


 あれよあれよという間に、話がまとまり、会議は閉会。

 議長は「お疲れ様でした」と当主たちに頭を下げる。


 

 ユリアスはあっけにとられた。

 


 一体、自分の使命は何だったのか……それすら考える暇は与えられなかった。

 行ったら分かると殿下に送り出されたのに、殿下はやはり、めんどくさかっただけなのだろうか?


 ユリアスが席から立ち上がろうとした時、まだ椅子に腰かけたままのグレゴリオ卿に声を掛けられた。


「おい、お前、殿下は『賢者』の見当はついているのか」

「はい?」

「ついているのか、ついていないのか?」

「えっと……私は存じ上げていません。まだ新人なので」

「側仕えなのにそんなことも教えられていないのか?! あのうつけの皇子は一体何をしているのか?」

「うつけ?」

「そうだ。まつりごとをほっぽって、毎日ふらふらと華街はなまちへ出かけているそうだが、話は本当のようだな。賢者探しをしているのかと思ったが……」

「……なぜそこまで『賢者』にみんなこだわるのですか?」


 ユリアスは本来なら自分の主に聞く予定だったことを、目の前のグレゴリオ・ベルンハルトへ投げかけた。

 心に置いておいても、きっと主は教えてくれないだろうから。


 真剣な眼差しで見つめるユリアスの顔をみるなり、グレゴリオ・ベルンハルトは急に笑い出した。


「お前、ほんとうに殿下の側仕えか?! お前、魔導家の次男坊だろう? お前の親父は何もお前に教えずここへ放り込んだのか?! お前はほんと不憫ふびんだな。何も知らずに、こんな殺伐とした場所に送り込まれて」

「…………」

「怪我までして、かわいそうに。本来なら武導家以外の者に言わないのだが、今回は特別に教えてやろう」



 そういうとグレゴリオ・ベルンハルトはユリアスの頭をぐっと掴み自分へ引き寄せた。

 そして、冷たい低い声で囁いた。


「聖剣を見つけた者が次期皇帝になれる。その聖剣は賢者が持っている。商導家も武導家もシュナイゼル殿下に忠義を尽くす予定だ」


 

 そして、最後にグレゴリオはユリアスに問うた。


 魔導家のお前はどちらにつくのか……と。

 










 

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