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カデトラル⑥

「怪我の詫びとして、何にも知らないお前に教えてやるよ。どうして、みんなが血眼になって『賢者』を探しているのか? 賢者は伝説上の人物ではなく、ちゃんと輪廻転生を繰り返している。賢者が持つ『聖剣』が次期皇帝になるためには必要だから、殿下方の側近や側仕えたちは必死になって、賢者の行方を捜しているのだ」


 ゆったりとした口調と足取りで、扉に手がかかったままのユリアスの前に立ち、見下げた。


「お前も本当の側仕えなら、あいつらと同じように血眼になって『賢者』を探すことになるだろうな。そして、私の元に来るはず。手がかりを求めてね」


 ずっと黙って聞いていたユリアス。

 脳内に疑問符が沢山浮かび上がるが、ここで口に出すのは賢明じゃないと判断し、ぐっと頭の中に押し戻す。

 そして、首を少し右へ傾け口を開いた。

 

「そんな自信満々に話すのだから、あなたはその『賢者』の居場所を知っておられるのですね。でも、残念ながら、僕はあなたの元へ行きませんよ。『聖剣』が欲しいのは、次期皇帝候補自身であって、探すことを自分でしなければ意味がないから。こんな出来そこないの側仕えがあなたの元へ行ったとしても、あなたが『手がかり』を教えてくれないくらい、こんな僕にもわかります。そもそも、僕は『何にも知りません』から、殿下がそうしろと言っても何もわかりません……」


 ユリアスは、自分は権力争いには無意味な存在であることを、目の前の騎士に断言した。

 それを信じたのかどうか定かではないが、ケインは「そうか」と短く言った。


「眼鏡悪かった。新しいものを調達する」

「結構です。どうで、あれは偽物フェイクですから」


 そして、ユリアスは、部屋を後にした。




 部屋を出ると、太陽に厚い雲がかかって、辺りは薄暗くなっていた。

 今にも雨が降りそう。


 ユリアスは胸元のポケットから、懐中時計を取り出し時間を確認すると、針は両方12を指していた。

 これではかなりの時間、部屋を開けていたことになる。

 

 さすがに何もせずに、ぶらぶらしていただけなのはまずいと思い、気休めだが歩幅を大きく、そして速めて歩き出す。

 ただでさえじろじろ見らるのに、このひどい有様。

 宮中に来てからずっとかけていた眼鏡も吹っ飛んで粉々になってしまった。

 少しでも賢そうに見えるからと、父上がくれた物だった。

 喧嘩に巻き込まれて壊れたなんて、口が裂けても言えない。


 白い清楚な制服を身にまとった教会付きの侍女たちが、こちらを見るなりさっと逃げ出すか、柱に隠れてこそこそ話すのが聞こえてくる。


 もっと早く歩きたかったが、片目は眼帯で距離がつかめないので、これ以上怪我を増やさないためにも、慎重に石畳の階段を降りていく。


「せっかく心を清めたかったのに……」


 悪態をつきながら、ユリアスはカデトラルを後にした。




               *******



「どこをどうほっつき歩いたら、そんな姿になるんだ?」

「それは……その……すみません」

「眼鏡はどうした? 大丈夫なのか?」

「ええ、視力は悪くないので」


 執務室に戻ると、すでに皇子は帰ってきていて、椅子に深くもたれ掛かり腕を組んで待ち構えていた。

 それは怒っているというよりも、むしろ呆れているよう。

 隣に控えているカイルは、困った顔をしながら、沈黙を決め込んでいた。


「で、この紙は読んだのか?」

「はい……」

「では、成果を発表してもらおうか?」

「えっと……その、水やりはしました。一応書簡が届けられていないか、教会までいきましたが……」

「届いていたのか?」

「いえ……。カイルさんが持って行かれた後、だったので……」

「で、何をしていたんだ? 私の側仕えとして何か役に立つことはしたのだろう?」

「うっつ……それはですね……」


 ユリアスは言葉を詰まらせた。

 役に立ったことなんて一つもしていない。

 むしろ、殿下の気品を下げた可能性の方が高い。

 こんな何も知らない者を傍に置いておく皇子の気質はいかがなものか?と 城内に噂が広まる可能性大だ。


「何もせずにケイン・シュルツと、商導家の者の喧嘩に巻き込まれたのか?」

「なぜ、巻き込まれたことを知っているので」


 落としていた視線を、一気にラザフォードの顔へ移す。

 それを言ったとたん、ケインという騎士の言葉を思い出した。

 たしか、殿下に使いを出したとか、なんとか……


 つまり、目の前の主には、全部筒抜けってこと。

 口を開くなり、ああ……と自分の愚かさに気づく。



「お前、私を誰だと思っているんだ? これでも一応この城の主だが?」

「そうでした……。本当に申し訳ございません」


 ユリアスは深々と主に頭を下げた。

 いろいろ弁解をする気にも、もはやなれない。

 完全に自分の失態だ。

 例え巻き込まれ事故だったとしても、もっと周囲に気を付けるべきだったし、宮中の行動は慎重に、と口酸っぱく父に言われていたというのに。

 ユリアスは肩を落とし自分の足元をじっと見ながら、目の前の主が自分のクビを命じるのを待った。












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