カデトラル③
「殿下宛ての書簡なら、朝一でカイル殿が持っていかれましたよ」
あっさりと終わってしまい、やることがまた無くなってしまった。
ぼんやりと執務室にいるのもなんなので、ポケットから地図を取り出し、今まで歩いたことがない箇所へ出向いてみることにする。
自分とは違い、通り過ぎる役人たちはせわしなく歩き回っている。
仕事がありすぎるのも困るが、全くないのも考え物だと、ユリアスは実感した。
廊下を歩いていると、何人かの役人に「調子はどうだ?」と声を掛けられる。
それがユリアス自身を心配しているのかどうか疑わしいが、ユリアスは愛想よく「まぁまぁです」と受け流しながら歩いて行った。
こないだイザベラから教えてもらって、ずっと見てみたいと思っていた教会内部のカテドラルへの道順を確認し、近くにいた教会の兵士に、行っても大丈夫かと尋ねた。
「今日は祭事がないので、一部解放されています」
「ありがとうございます」
ユリアスは礼を言い、カテドラルへ続く回廊を歩いていく。
カテドラルへ入れるのは、高貴な身分の貴族あるいは神職の者と、護衛の教会付き騎士だけだ。
国の重要な祭事はここで行われるので、神導家が管理を徹底している。
アストラス帝国では、黒髪に青い目の女神がこの地上に降り立ち、金色の髪の男に王としての力を与え、一緒にアストラス帝国を建国したという、ローゼン教を信仰していて、その女神を奉っているこのカテドラルが、ローゼン教の聖地とされている。
そして、女神の声を聞くことができるという『サキヨミの巫女』と呼ばれる女性がいるのも、このカテドラルだ。
とても神聖な場である神殿から奥は男子禁制で、女神に身を捧げている高貴な巫女たちしか入ることを許されない。
ユリアスがいる、本堂はその神殿の手前にある建物だ。
「すごいな……」
噂に聞いていた、カテドラル本堂のバラ窓を目の当たりにして、ユリアスは感嘆の声をもらす。
赤青緑黄色など、色とりどりのステンドガラスに装飾された、美しい窓は太陽の光を受け、キラキラと輝いていた。
そして、一枚一枚がアストラス帝国の創造の歴史になっているので、見ているだけで物語に吸い込まれそうになる。
本堂の奥には祭壇があり、その正面には長い黒髪をなびかせて大きな杖を持っている女神の色彩豊かな絵が描かれていた。
青い瞳は空よりも蒼く、本当に風が吹いてなびいているように腰まで伸びる髪は一本一本丁寧に描かれている。
黒髪に映える白い簡素な衣装を身にまとい、どこか遠くを眺めるその横顔からは、聡明さと、意志の強さ、そしてすべてを包み込むような慈愛があふれ出ていて、見ているだけで色々なことから解放されるような気分になった。
女神を取り囲むように、バラの彫刻が施され、前の祭壇のほとんどの装飾品は金で統一してあり、相当お金と時間をかけて丹念に職人によって作り込まれたことが、芸術にあまり詳しくない者でもよく分かるような素晴らしさ。
一方、建物自体は豪勢な彫刻はなく、白い岩を切り崩して造られているので、空気が外気よりひんやりと冷たく、神聖な雰囲気が漂っていて、心も体も清められる感じがした。
今ここには、入口の門番の騎士以外には誰もいない。
誰に気兼ねすることもなく、ゆっくり芸術を堪能出来るだけも、宮中に来た甲斐があった、とユリアスは少し思った。




