カデトラル②
「待たせたな。沢山食えよ!」
ユリアスの前に、大皿がどかっと3つも置かれ、周りのテーブルに座っていた者たちが一斉に、こちらに振りむいた。
大皿には鶏肉のソテーや蒸かしたジャガイモとトウモロコシ、ふわふわ卵のオムレツと、大きなパンケーキが5枚、カリカリベーコンがのったサラダに、コーンスープ。
目の前に出された料理はどれも魅力的だが、ユリアス一人で食せる量ではなかった。
「ありがとうございます……。でも、さすがに全部はちょっと食べきれないかと……」
「食えるだけ食わないと、お前さん倒れるぞ?! 殿下の側仕えとして、ちゃんと働いてもらわんと困るからな! さあ、遠慮することはない。どんどん食え!」
ユリアスは苦笑いしながら、言われるがまま、フォークとナイフを必死に動かし自分の口へと放り込んだ。
ゆっくり食べたいところが、今のユリアスにはあまり時間がない。
ラザフォード殿下の元へ行くのが遅れた瞬間、クビにされる確率が今でも高いのだ。
ユリアスが三分の二を食べ終えたころには、太陽光が窓から差し始めていた。
胃袋の限界もあと少し……これ以上入れたら、腹痛を起こして動けなくなりそう。
料理長には申し訳ないが、残りを食べたそうにしていた兵士に渡して、ユリアスは主の部屋へと猛ダッシュする。
(うっ……食べすぎて気持ち悪い……)
横腹を押さえながら、ラザフォード殿下の部屋の前に控えている侍従に念のため身分証を見せ、部屋へと入る。
はぁ、はぁと上がった息を整えつつ、主がいる部屋へ。
「おはようございます。殿下……って、あれ……?」
いるはずの主はおらず、部屋はもぬけの殻。
侍従たちも皇子がいないことに気付いていないようだ。
昨日とほとんど変わらない皇子の執務室に、一人取り残されたユリアスは、ただ立ち尽くすしかなかった。
「時間……間違えた? いや、確かに今日は8時に部屋に来るように言われたし」
昨日は疲れてすぐ寝てしまったが、寝る前の記憶はある。
側近のカイルも見当たらないので、ユリアスは自分のすべきことが全く分からなかった。
「また、会議をすっぽかしてどこかへ消えたのかな……」
ユリアスは、主の机にもたれ掛かって、なすすべなく天井をしばらくぼんやりと見つめた。
「あ~、二週間たったけど、この振り回され方は慣れない……」
傾けていた体を起こそうとした時、手に何かが触れた。
「ん? なんだろう?」
それは白い紙きれ一枚。
四つに折ってたたんである。
ユリアスは、首を傾げながら、それを開いてみた。
『今日の業務は、自分の頭で考え実行する事。
私の利益になることをするように』
手紙とはとてもいえない、業務命令を呼んだユリアスは、ガクッと肩を落とした。
与えられすぎも困るが、何も指示されないのも恐ろしい。
ユリアスは朝から大きなため息をつき、どうしたもんかと近くの椅子に腰をおとし、天井を仰ぎ見た。
「出来の悪い僕が、殿下の利益になるようなことなんて、できるはずもないのにね。約束の二週間は過ぎたから、他の坊ちゃんたちよりも長く仕えた事実はできた。さて、これからどうしたもんか……」
基本、省エネモードでいたいユリアスは、言われたことしかやらない。
でも、ここは王宮で、自分が仕えている主はどこかの当主ではなく、皇子様。
ユリアスはしばらく考えたのち、さすがに何もしないわけにはいかないか……と、とりあえず昨日した水やりを行うため、中庭へ向かった。
眩しすぎるくらいの日差しの中で、ユリアスは淡々と鉢に水をあげていく。
来てばかりの頃に植えた鉢からぴょこんと、新芽が出ていた。
まだちょっと薄い緑の新芽は弱々しいが、小さいのに生命力を感じさせる。
雑務しか頼まれていなく、なんのやりがいも感じられない毎日だが、少しだけ自分のしてきたことが報われた気がして、ちょっと嬉しくなった。
このままここで言われるがままやる仕事も、ちゃんと魔導家のみんなの為になっているのだろうか?
果たして、意味があるのだろうか……
このままずっと雑務に追われる毎日だと思うと、ため息しか出ない。
「みんなどうしてるかなぁ……もうすぐりんごの収穫の季節だから、忙しくしてるんだろうな……母上のりんごパイ、今年は食べれないのかぁ」
誰もいない中庭で大きな独り言。
今までとは、うって変わって、時間がなかなか過ぎない。
いつも通り水やりを済ませた後、皇子宛ての書簡が届いていないか、教会へ向かった。




