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皇子からの挑戦⑩

 こうして、皇子の雑用に追われる毎日を過ごすユリアスを、周りの者は気の毒そうに見ていたが、一方で、その皇子の側でやっていけるのだから、とんでもない変わり者だと噂されるようになっていた。


 そんな噂を聞き流しながら、ユリアスは主から言われたことを淡々とそして、着実にこなしていく。

 そして、一日の仕事が終わると決まって、主はユリアスにお菓子の包みを投げてよこす。

 これが、一日の日課になりつつあった。


「毎日お菓子をくれなくても、ちゃんと仕事しますって」


 包み紙を開きながら、キャラメルを口へ運ぶ。


「甘いものは嫌いじゃないんだろう。もらえるものは、黙ってもらっておきなさい」

「そうですね……。でも、今、国は凶作で小麦が手に入りにくいので、お菓子が好きな村の子どもたちは食べれないから……」

「じゃあ、私があげたお菓子を村の子どもに配ればいいだろう?」


 ラザフォードは目を細めながら、ユリアスをじっと見つめる。

 その目はユリアスのことを見透かしているようだった。


「僕がそれをしないことぐらい、殿下はお分かりでしょう? こんな微々たるお菓子を配ったところで、争いしか生まれない。根本を解決しないことには意味がないって」

「まあな。それじゃあ、お前はどう解決するつもりなんだ?」

「それは、僕の仕事ではありません。僕の仕事はあなたに仕えることですから」

「じゃあ、お前の領地の者はそのまま放置というわけだ」

「殿下、意地悪はおやめなさい。ユリアスがかわいそうでしょう」


 カイルが空になったティーカップに紅茶を注ぎながら、二人の間に入る。

 ユリアスが王宮に上がって、2週間が経った。

 最初のころは、気を使ってイエスしか言わなかったユリアスも今や主に言い返すように。

 だから、カイルが二人の間に入る回数も日に日に増えていった。


「何とかするために、ここに来たんです。中央にまで魔導家を見放されてしまったら、二進にっち三進さっちもいかなくなりますからね。だから、殿下、ちゃーんと働いて、王座についてくださいね」

「さて、それはどうかな。そんな簡単に私が王座につけるとでも思っているのか? 私はふぬけの皇子だからね」

「自覚がおありなら、ちゃんと政治関係の会議には出席してくださいよ。昨日だって、予算会議をほっぽってどこかへ行かれたでしょう?! 代わりに僕が大変な目にあったんですよ!来年度の予算を決める大事な会議なのに、一体どこへ行かれていたのです!?」


 ユリアスは今までのうっ憤をぶちまけるように言い放った。

 相手は皇子であるということは、もはやお構いなし。

 ムッとしているユリアスの機嫌をとるように、ラザフォードは机の引き出しから紙の箱を取り出しユリアスに見せた。


「ユリアス、まぁ落ち着け……チョコレート食べるか?」

「殿下、ユリアスが怒るのも無理はないですよ。役人たちに吊し上げにあったらしいですから」


 その話をユリアスから昨日聞かされていたカイルは、苦笑いをしながらラザフォードに書簡を渡す。


 予算会議があることは知っていたが、まさか出席せずにどこかへ行ってしまったなんて……

 

 昨日、ユリアスがいつものように鉢植えに水をやっていたら、血相を変えて役人たち6人に取り囲まれたのだ。

 役人たちから問いただされて知った事実にドン引きしながら、ユリアスもふぬけの皇子を見つけるべく、彼らと一緒に城内を駆け回ったが、時すでに遅し。

 側仕えとして、管理不足で自覚が足りないとまで罵られ、彼らの怒りの劫火を一斉に受けることになったユリアスが、役人たちから解放されたのは、二時間後――

 こんこんと自分のせいじゃないことを怒られるのも辛いものだと、その時、初めて知ったのだった。


 それを聞いた当の本人は、目の前で笑い声をあげている。


「いやぁ~、お前を責めても何にもならないのにな~。彼らも暇人だ」

「殿下、役人たちのことも考えてあげてくださいよ。殿下が承認しないと決まらないことだってあるんですから」

「じゃあ、ユリアス聞くが、私がいないと決まらない予算はどこから出てるんだ?」

「それは民からの税金で」

「その税金がちゃんと集まっていないのに、どうやって来年の予算を決めろというんだ。それこそ机上の空論というものだろう」

「税金がちゃんと集まっていないって、どういうことですか?」

「表面にはまだ大きく表れていないから、まぁ、まだ皆は気付いていないだろうが、ちょっと不穏な動きがあるのだよ」


 ふぬけと言われている皇子は、窓の外を眺めながら、意味深な言葉を発した。


 






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