真実と正義③
皇帝戦まで、後二日――
城下町だけでなく、それぞれの領地で皇帝戦を盛り上げる祭りが催され、人々は浮足立っていた。
皇帝が決まるということは、同時に『賢者』が現れるということを意味する。
この国を建国した当時から、『賢者』という存在は特別で、国の厄災を祓うことができる唯一の存在だと信じられてきたから、次期皇帝と同じぐらいみんなの興味を集めていた。
「さ〜、賢者が一体どこの領家出身なのか?! 一口10ルビー! 賭けにのるやつはいるかい〜? 今の一番人気は商導家、二番目が武導家だよ!!」
「シュナイゼル殿下が御用達のクッキーはいかがですか?」
「さあ、これを持って皇帝戦を盛り上げよう!1フラッグ2ルビーだよ」
この街の状況とは裏腹に、当事者はそれぞれ問題が勃発し、皇帝戦を楽しむ余裕はなかった。
牢獄からユリアスが連れ去られたと報告を昨日の夕刻に受けたシュナイゼルは、すぐさま自分の近衛騎士団をも派遣し、ユリアスの捜索にあたらせたが、見つかったという報告は夜が明けても、未だにない。
こうなった以上、ユリアスを野放しにし、生かしておくことはできない。
シュナイゼルは、騎士団たちに「捕獲」ではなく「殺す」ことを命じた。
本来なら服従させて利用し尽くす予定だったが、ハイリスクはおかせない。
貴重な『叡智の力』を失うことは残念だと少しは思うが、それ以上に愉快でたまらなかった。
「あの義兄からどんどん大切なものを奪ってやる――賢者も、王座も、この国も!!」
シュナイゼルは、ワイングラスを握りしめながら言い放った。
「おい! デルモゾールからの連絡は?!」
「殿下、申し訳ございません……まだ報告はなく…」
「何をチンタラしているんだ!! 相手は小僧一人だぞ!? 今日のうちに仕留めるよう伝えろ!」
「はい!かしこまりました!!」
皇帝選まであと二日――
唯一の候補であるラザフォードは今や牢獄の中。
このままだと、皇帝戦に出席することすらかなわない。
だから、勝利は我が手の中にある。
しかし、相手はあの義兄――最後の最後まで油断ならない。
だから、少しの可能性も全部潰さないと―――
シュナイゼルは、身支度を整え、神殿へ向かった。
「シュナイゼル殿下、お待ちしておりました。サキヨミの巫女様がお待ちです」
カーテンの奥には、椅子に腰掛け窓の外を眺めているサキヨミの巫女の姿があった。
その瞳は憂いを少しおびている。
側で控えていた侍女がティーカップにお茶を注ぐが、特にサキヨミは反応せず、ずっと視線は窓の外。
皇帝選がいよいよさし迫ってきたからだろうか?
それとも何か良くないものを視たのだろうか?
「何か不安なことでも?」
「シュナイゼル殿下……ユリアス殿が逃げたそうね」
「捕らえるのも時間の問題だ。心配ない」
「相手はあのラザフォード殿下……一筋縄ではいかないと思います」
「何を弱気なことを。不吉なビジョンでも視えたのですか?」
シュナイゼルはふっと鼻を鳴らしながら、向かいのソファーに腰掛け足を組む。
神殿の中はいつ来ても不思議な空気で満ちている。
人によっては居心地がいいと感じるのかもしれないが、シュナイゼルにとってはこの冷ややかな空気は不気味に感じられ、居心地よくはない。
そして、異物を排除するような気配も感じる。
本来なら、ここは男子禁制だから、女神が拒絶しているのかもしれない。
「あれ以来ビジョンは視えないわ。それより殿下、箱の開け方は聞き出せたのですか?」
「いいや。奴は見つけ次第、殺すことにした」
「――?! こちら側に引き込む予定だったのでは?」
「予定が変わった。『あれ』を生かしておくにはリスクが高すぎる」
「じゃあ、箱はどうやって開けるのです?!」
「別に開けなくともいいさ。どうせ、私以外の皇帝の選択肢がなくなるのだから」
「………そうですか」
サキヨミの巫女はそれ以上何も言わなかった。
この鳥籠からでる唯一のチャンスを逃してはならない――
たとえ、それが破滅への道かもしれなくとも……
サキヨミは首から下げているロザリオをギュッと握り、愛しい人の行く末を祈った。




