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真実と正義①

 「どうして……」


 これは夢なんじゃないか?

 血が足りなくて、脳が見せてる幻覚で、死期が迫っているということなのか?

 ユリアスはゆっくり何度も瞬きをした。

 目の前に現れた人物の存在に信じられなかった。


 ポカンとしているユリアスに、「言っておくが、幽霊じゃないから」と言いながら、牢屋の鍵を開けた。

 

「見張りは?どうやって鍵を? どうやってここが?」

「質問が多いな。それだけ喋れるなら安心だ。さ、早くここから出るぞ」

「レイ……ラザフォード殿下は? 僕のせいで殿下は――」


 颯爽さっそうと現れたレイフォードは、ユリアスの質問に一切答えず、淡々とユリアスを拘束している鉄の鎖を外していく。

 そんなレイフォードの腕をユリアスは掴んで、必死に訴えた。

 殿下の側近がラザフォードやカイルの身が危険なときに、自分を助けに来ている場合じゃないだろう?!



「レイ、僕より殿下を! このままじゃ、皇帝選どころじゃなくなる!! シュナイゼル殿下に王座が――」

「ユリアス、それ以上しゃべるな。ラズは大丈夫だ。カイルも。だから、今は自分のことだけ考えろ!」


 ユリアスは掴んでいた手を離した。

 そして視線を床に落とし、おとなしくレイフォードの腕に収まる。


 レイフォードはおとなしくなったユリアスに止血を施し、応急手当をした。

 思った以上に傷は深い。

 長時間拷問を受けていたのが、それでよくわかった。


 処置を終えてユリアスを抱き上げ牢屋から出る。


 牢屋の前では、デルモゾールが口から泡を吹いて気絶していた。

 見張りの憲兵も同じように意識を失って倒れている。

 階段をふさいでいる憲兵を足でどかしながら、レイフォードは出口へ向かった。 



「おい、お前!!」


 見張りの交代にやってきた憲兵が出口の前に現れる。

 ユリアスを担ぎ上げながら、剣で退治するのは危険すぎる。

 ユリアスは、すかさずレイから降りようとしたが、レイの腕力にはかなわない。


「レイ、このままじゃ…やられてしまうよ…だから…」

「誰がやられるって? そんなにヤワじゃない」


 そう言いながらレイフォードは憲兵に向かって何かを投げた。

 

 それは床にあたった瞬間、爆発し白い煙を発生させた。

 それと同時にレイは出口へ向かって走った。



 外に出たら、あとは一瞬の出来事。

 同じように追いかけてきた憲兵に手榴弾を投げつけ、馬を奪い、この場からさっそうと離れた。

 ユリアスはその間も担ぎ上げられたまま、おとなしくするしかなかった。



「ユリアス? あと少しだから」

「う……ん」


 ユリアスの顔色は真っ青だ。

 止血した部分からも血が滲んでいる。

 体力も気力も限界を超えていたユリアスはそれ以上意識を保てず、瞼を閉じた。





                  ********



 

 

「ちょっと、君、枕が硬すぎて寝られないんだけど? 王宮から専用の枕を調達してきてくれ」

「できかねます、ラザフォード殿下」

「どうして?! それがないとさ、私は寝られないんだよ! ほら? 睡眠不足で明日の尋問に支障をきたすよ?そうなったら君たちも困るだろう?」

「……殿下、もう真夜中です。静かにおやすみいただけないでしょうか?」

「だ・か・ら、そのために枕がいるって言っているんだよ! 私はこんなところにいつまで閉じ込められるわけ? 肌荒れや病気になったらどうするの?」

「いつまでって…真実が明らかになるまでかと…」

「真実って小麦泥棒の? それとも元側仕えの殺人容疑のこと?」

「どちらもですよ!! いい加減おとなしく寝てください」

「あのさぁ、もう少し頭使ってくれないと困るんだよね。いろいろ証拠不十分だろ? あ〜国の司法も落ちぶれたもんだ」


 枕がどうのこうのと騒ぐお前に言われたくない―と見張りの憲兵は思ったが、相手は一応まだ皇子なので、言いたいことは腹にしまう。


 ぎゃあぎゃあ文句をいっているラザフォードだが、用意されていた部屋は王宮の侍女たちが住んでいる宿舎レベルの部屋で、大きく違うのは扉ではなく格子で中が見えるということだ。

 トイレに行きたいときは憲兵に言えば個室のトイレを使わせてもらえる。


 かなりVIP待遇をしてやっているのに、このクソ皇子は――と見張りについた憲兵誰もが思った。

 しかし、時間が経っても皇子のおしゃべりは止まらない。


 独り言ならまだしも、話しかけてくるから、「皇子だから無下にはできない」という心理がどうしても働いてしまう。

 それはだんだんエスカレートし、自作のポエムについての感想を求められたり、自分たちの恋バナをねほりはほり聞き出されたり、一番きらいな兵長はだれかと尋問されたりした。


 (早くコイツをここから出して、自分たちから開放してくれ―――!!!!)


 拷問を受けているのは明らかに皇子ではなく、憲兵。

 変人皇子はこの状況をかなり楽しんでいるのがみんなわかった。

 しかし、彼らに皇子の暴走を止められるものはいない。


 一日一日が経つごとに憲兵はかなり疲弊し、中には精神不良を訴えるものまで現れた。





「おい、おまえ!よくあの殿下と一緒にいられるな?! あの皇子をどうしたらい???」


 カイルの元に見張りにつく憲兵はみんな同じ質問をし、あの皇子の対処法を格子越しにカイルに乞うた。


「まぁ、やりたいようにさせておくしかありませんねぇ…それが嫌ならさっさと開放するしか」

「それができればとっくにやっておるわ!! このままじゃ、憲兵全員が精神不良になって仕事にならん!!」


 憲兵は自分の髪の毛をかきむしり、叫んだ。

 


 




 

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