閉ざされた過去②
「ラザフォード殿下、カイル様大変でござ――」
扉守の侍従が言い終わるより先に、憲兵団が執務室へ乗り込んで来た。
「一体何事か!? ここをどこだと思っている?! 殿下の御前である。お前たち下がれ!!」と珍しくカイルが声を荒げ、憲兵団の団長に歯向かうが、団長はひるむことなく、一通の書類をカイルの前に突きつけた。
「裁判所より、『只今をもって、ラザフォード殿下並びに、その側近たちを、ユリアス・ヴィーゼントの殺人に加担した被疑者として身柄を拘束する』」
「ユリアスが殺人なんてありえない! これは陰謀だ!!」
「お前たち、さっさとこの男を拘束しろ! 殿下、申し訳ありませんが、同行を願います」
書物をしていた手を止め、ラザフォードは「はいはい。わかったよ。痛くはしないでおくれよ」なんて悠長なことを言いながら、立ち上がった。
バサッ――
「おっと、すまない、大事な書類が――」
机の上から積み上がった書類が床に散らばる。
周りの憲兵はそれを無視して殿下を早く外へ連れ出したかったようだが、ラザフォードが「これは国の経済を左右する大切な書簡で、一枚でも紛失すると隣国と戦争が――」などと説明を始めるので、しかたがなく、拾って元通りに書類を整えるまで待つことになってしまった。
「もうよろしいでしょうか、殿下?」
「ああ、うん。ありがとう。じゃあ行こうか。聞きたいんだけど、留置所にスキンケアグッズはおいてあるのかな? 私の肌は敏感肌だから、スキンケアグッズがないと肌荒れを起こしてしまうんだ」
(留置所に行くんだぞ!? そんなものあるわけねーだろ!)
「で、殿下、申し訳ありませんが、そのようなものはありませんし、持ち込めません」
「それは困るよ! 私の美貌は毎日欠かさず行っているスキンケアによって保たれているのだぞ? もし私が肌荒れしてしまったら、貴婦人たちが発狂してしまう!!」
「いや…それは…」
(ってか、お前は殺人に加担している嫌疑がかけられてるんだぞ? そっちのスキャンダルのほうでみんな発狂するわ!! お前の肌にはだれも気を配らないだろうよ)
団長が顔をひきつらせて返答する。
黙っておとなしく連行されてくれないか、はずかしい……と側近であるカイルも思った。
「なんとかならないかな。あと、専用の枕がないと眠れないんだよ、寝間着もシルクじゃないと困る。ブツブツができてしまうからね。あ、リストを書こうか? 一度にいろいろ言っても覚えられないだろう? ちょっとそこの君、ペンと紙を!」
「殿下、今から行くのは留置所です! 遠足に行くわけではありません! 立場を考えていただかないと」
「だからだよ! どのぐらい留置所にいるかわからないんだろう? 滞在をすこしでも快適にしたいんだよ。もし留置所で私の健康状態が悪くなったら、憲兵団として死活問題じゃないのかい?」
「え、ええ?!いや、それは……」
対応に困り果てている団長を見て、カイルは団長が哀れに思えた。
スイッチが入った彼を止めることはできないので、しばらく暇つぶしに黙って見ていることに決めた。
こうして、二人は留置所へ移送されていったのだった。




