閉ざされた過去①
ユリアスが起き上がろうとした瞬間、黒いフードはぐっとユリアスの右腕を引っ張った。
そして、思いっきり脇腹を蹴り、首裏を素手で殴って、ユリアスを気絶させる。
「旦那様、外は誰もいません。さ、早く」
「ああ……後はちゃんとこいつらを始末しておけよ」
「はい、もちろんでございます」
中年の女は胸に手を当て、真の主に言った。
フードの男ははユリアスを抱え上げ、この小屋を後にした。
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小屋の外の杉の木の上に潜んでいたレオンハルトは、今にでも飛び込んで行きたい気持ちを抑え、冷静に事態観察していた。
(ユリアスの言った通りになった……このままじゃユリアスが連れて行かれる…しかし、この場を離れたら、小屋の中の者が全員死ぬ……どちらかを選べなんて……)
こんなことなら従者の一人でも連れてくるんだった――レオンハルトは小さくため息をつき、ぐっと手を握りしめ覚悟を決めると、木を蹴って地面へ飛び降りた。
雪がずいぶん積もっているので衝撃はない分、歩きにくいし、周りの音も雪が吸収する。
小屋の周りは不気味な静けさに包まれ、響くのは時々木の枝から落ちる雪の音だけなのだが、遠くから何かが近づいて来ている気がした。
(なんで、憲兵がここに――?!)
目を凝らすと、王宮の憲兵団の紋章が入ったマントを身に着けた集団がこちらに向かってきている。
人数も十数名。
こんな領地の端に来るなんてありえない。
レオンハルトは急いで、裏の小屋の窓を破り、中へ入った。
「ここか?」
「はい。兵長」
「あの方のこった、抜かりないな」
兵長と呼ばれた男が、転がっている首を足で蹴りながら言った。
そして、そばに落ちていた剣を拾い上げ、柄の紋を確認する。
「おい、これをデルモゾール様に届けろ。我らが主を玉座に据える大事な剣だからな」
「これでラザフォード殿下は終わりですね。まさか、臣下が殺人犯だったなんてしれたら、その主である殿下も罪を免れない。よくもまぁ、こんな手を考えつきましたね」
「これはすべて『あの御方』の指示だ。成功すれば、デルモゾール様を昇進させてくださるはず。そうなれば我らも安泰だ」
不気味な笑い声を聞きながら、レオンハルトは目の前の男たちの情報を脳内でかき集める。
(デルモゾールって、あの商導家のデルモゾールなのか? だとしたらかなり厄介だ。『あの御方』っていうのは商導家のだれかってことか? だとしたら、バックにいるのは―――)
ユリアスのことだから、多分大丈夫だと思う。
でも、今回は流石に、領地のいざこざとはわけが違う。
なんとかして王宮に伝えなければいけない。
ラザフォード殿下の身にも危険が迫っている。
一刻も早くここから脱出しないと―――
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ガチャ―――ガチャン――
ガチャ―――ガチャン――
「くそっっつ!!」
目覚めたユリアスは鉄の手錠で両手を拘束され、自由に動き回れないよう、足にも足枷がはめられていた。
石の壁にたたきつけてももちろん壊れるわけがない。
代わりにユリアスの手首足首から血が流れた。
この檻は地上なのか地下なのか――?
真っ暗闇を照らすのは、格子のそとのろうそく2本の光のみ。
せめて、それだけでも確認したいユリアスは石の壁の反響具合を探るため、ひたすら壁を叩く。
「うわっ」
足枷の鎖につまずいてバランスを崩し、床に転がった。
「いった……」
見上げると、高くない天井には不気味な染みがいくつもある。
それが一体何なのか、どうやってできたのか考えないように目をつむった。
「あとどれ位、『力』は使えるかな…」
黒幕の正体にやっと近づいて追い詰められるところまで来た。
あとは、ラザフォード殿下に報告するだけ。
一刻も早く、このことを殿下に知らせないと――
「よお、もうお目覚めかい? もう少しいたぶってやりたかったが、あの方の命令だ。お前、命拾いしたな」
胸と腕に王宮の憲兵の紋章をつけた男が、格子の外からユリアスを見下げて言う。
ニヤニヤと笑うその顔は気色悪く、ユリアスは彼を睨みつけた。
「おお、子猫ちゃん、そんなに睨んだってここから出してはやらね〜よ? そんな虫も殺せなさそうなのに、人殺しとはね。お前、一人であの男たちを殺ったのかい?」
「僕じゃない!! あれは―――」
ガッシャン!
ユリアスは格子に飛びかかった。
「無実だっていうのか? お前が殺ったっていう証拠もある。直に、処刑台へ送られるだろうよ」
「ふざけるな! こっちは事情聴取もされてない。一方的に嫌疑をかけられているだけだ! 弁護人を!」
「弁護人? そんなもの無意味だ。お前は拷問され、処刑台へとすぐに送られるだろうよ」
ガハハハハハハハっ――
気色悪い笑い声が響き渡った。




